田舎芝居

田舎芝居【いなかしばい】…(落語)

ある田舎の村の秋の祭りで相撲大会だと怪我人が多く出るし、かけっこだと近道でズルをしようとみんな畑を走って荒らすというので芝居をしようということになる。

噺家の前座を掛け持ちするような下回りの役者・中村福寿が講師を依頼され、出張。出し物は仮名手本忠臣蔵と決まり、みんな張り切って準備をする。


大序…高師直役の烏帽子にハチが入ってて頭を刺され、たまらず烏帽子を放り出すとみるみる頭が膨れ上がる。

舞台番のおじいさんが「馬鹿野郎!師直とデコスケの早変わりなんか見たことがない。師直は分かったがデコスケはなにしに出たのだ馬鹿野郎」


二段目三段目は無事にすんだが、四段目で人出は足らぬわ判官は九寸五分を右の腹に突っ込んだから、もう右に引きようがなくて背中に回してまた左からひいて判官割り切りにしたりして大騒ぎ。

由良之助が出てきて、「それに続いて千崎矢間…」と言っても誰も出てこないので「諸氏!諸氏!」と振付師が言うとシシが「俺か!?」と勘違いして飛び出し、「ナムサン違った!」と気づくや侍を蹴散らしてフスマを蹴倒して楽屋に引っ込んだ。

舞台番のおじいさんがまた「馬鹿野郎!判官が腹切るに野猪が出るテェがあるか!」

見てた人が「五万三千石のご城主が切腹なさるからご領内の獣が総名代に来ただ。」

老「それまでは気が付かねえ。いやおシシ。ごくろうさまでごぜえます」


五段目…今度は肝心なときにシシが出てこない。かぶりものを取って涼んでたところを急かされて股引をはかずに飛び出した。

舞台番のおじいさんがまた「馬鹿野郎!どこの国にツラと体がシシで腰から下に毛ばが無えっ!?」

「じいさま、播州の赤穂から江戸の屋敷までいって、それからまた京都の山崎街道まで歩いてきただから尻の毛までむしれただなあ」

老「いやおシシ。ごくろうさまでごぜえます」(ここのかぶせ、好き(笑))


定九郎を撃つはずの鉄砲は客に鳩でも食わせてやろうと太左エ門どんが持って行ってしまったので、なかなか大きな音が出ないで気をもんで催促してるうちに定九郎が血を入れた仕掛けをかんで吐血。

舞台番のおじいさんが「馬鹿野郎!どこの国に鉄砲のなんねえのにおっ死ぬ!?」

定「鉄砲、間に合わねえだから吐血で死んだ」


シシが四段目に飛び出したり、定九郎が吐血する噺は単独で上演されることもあるし、大序も「村芝居」という噺としても上演されている。

芝居噺の枕にしたり、この「田舎芝居」のようにまとめたり演者が工夫する。


上記の「田舎芝居」は桂文治(6th。 明治44年没)の口演で、舞台番のじいさんによって全編に統一がなされているが、近年では桂文我(4th)が遺志を継ぐかのように独自の構成で全段を独演会で掛けていらっしゃる


田舎の人が「仮名手本」を演る滑稽話は古くからあるそうで、あの十返舎一九も「田舎草子」(1804)というのを書いてるそうです。


<余談>

2017年のNHK連続テレビ小説「わろてんか」(明治〜戦後の吉本興業創始者のハナシ)において、出番をしくじったイノシシが四段目に飛び出すシーンが映像化されているが、村芝居ではなく街なかでやってる旅芸人の「俄(にわか:現代のコントのようなもの)」の興行で、ここでは舞台に判官と大星由良之助のみがあがって「義士いでよ」というセリフに緊張のあまり「シシいでよ」と聞き間違えた新米役者が楽屋から舞台に飛び出すというシチュエーションになっている。彼の挫折を強調するためにこの失敗は大ブーイングの辛気くさいシーンとなっており、客がウイットに富んだギャグなど言ってくれない。

新米役者を演じる松坂桃李の当惑の表情を見せるため、ここではシシは「かぶりもの」ではなく顔が丸出しの毛皮の衣裳となリ、わかりやすさを優先している。