六段目
仮名手本忠臣蔵関連の落語はどれも、忠臣蔵世界を落語の世界に置き換えたものではなく、八っつぁん熊さんの世界の中で題材として「仮名手本忠臣蔵が引き合いに出される」というようなものでありますが、六段目に関してはほぼ「ただの引用」に近いものが多いようでございます。
二八浄瑠璃
浄瑠璃に凝ってる男がおさらい会で六段目を発表することになるがセリフをうろ覚えで、練習中に「〽山越す猪(しし)に出会い、二つ玉にて撃ち留め…」ていうところの「しし」を忘れがち。
しかしもう本番は今晩だし、心細いので友だちが客席から「16ッ!」と、「四四十六」という九九をヒントにした掛け声をしてもらうよう話がまとまる。
本番、やっぱり同じ所で詰まって「16ッ!」と声をかけられた男だったが、2の段を思いついてしまい「〽山越すニハチに出会い…」とやってしまう。
というかわいらしいお噺。
幽霊の片袖
泥棒が、死んだ造り酒屋の娘の墓を暴いて仏さんが着ている高価な金無垢、三枚重ねの着物を売り飛ばす。
紋のついた片袖は足がつくので道具屋に売らず、大胆にも巡礼のふりをして遺族に会いに行き「越中立山のほとりで、亡霊となったお宅のお嬢さんから言付け(両親が泣いてばかりでそれが死後の世界で火の雨となって降るから供養をよろしくという内容)を頼まれた、その証拠」として片袖を出す。
すっかり信じた両親から泥棒はまんまと五十両ずつ「高野山へ」と託される。
「五十両と五十両。合わして百両、百か日の追善供養」と言ったところでタイミングよく流れてくる、裏の浄瑠璃お師匠さんの三味線…
「あと懇ろに弔われよ。さらばさらば、さらばさらばと見送る涙、見返る涙の・・」(六段目ラストシーン)
一部始終を見ていた番頭が「お六部さん、うまいこと語ったな」
…というオチ。義太夫を語ったのと、詐欺行為を働いた「語った」のとをかけております。(野暮な解説だなァ。すいません)
この浄瑠璃は原作のほうの流れで、歌舞伎の構成だと『お金〜さらば』ではなく、『お金〜血判〜血判たしかに受け取った「〽哀れ果敢なき」』…となり、さらに「さらば、さらば」の歌は出てこない。
落語の内容に近い「四十九日や五十両。合わせて百両、百ヶ日の追善供養。あと懇ろに弔われよ。さらばさらば。おさらばと見送る涙、涙の…」という流れは人形浄瑠璃の方で出てまいります。
六段目
あるそそっかしい旅役者が六段目を上演中、懐中から取り出すはずの一巻(連判状)を忘れて出てしまい、原郷右衛門と千崎弥五郎役の役者はもめながら揚幕に引っ込んでしまう。残された勘平が「この臓腑は、どうするどうする」。
蛸芝居
砂糖問屋のメンバーが出入りの魚屋、蛸にいたるまで芝居好きというお噺。
魚屋の魚金がタイをおろしているシーンで、臓物を見て「血腸…あったなあこんな芝居が。」と言って六段目の勘平腹切りを再現し始める。
蛸に当たった時に黒豆を食べると良いとする民間療法にちなんだオチ(桂雀々師匠は「毒消し持ってきて。蛸に当てられたんや」と黒豆は出さない。)まで、忠臣蔵に限らずいろいろな芝居が散りばめられている上方落語。
鹿政談
(別タイトル…春日の鹿)
奈良では鹿を殺せば死罪。そんな時代のお噺。
内容は間違って鹿を殺してしまった孝行息子の豆腐屋をお奉行さんが機転で助けてくれるのだが、鹿を殺めてしまった経緯を話すときに唐突に
「そばにありました割木を打ちつけましたところ、たしかに手応え。近寄り見ればイヌにはあらでこれ鹿。南無三方。薬なきかと懐中を…」
とギャグになる。その部分だけが忠臣蔵。
あんまり唐突なんで、六段目部分をバッサリとカットして、シンプルな名お裁きの政談モノでやっちゃう師匠もいる。
ちなみにオチは
奉行「斬らず、にやるぞ。」
豆腐屋「マメに帰ります。」
きらず=おからのことで、商売者のおからを食べて殺された鹿のエピソードが絡んでいる。打首にはしないよと言っている。
マメ=達者で、という意味。ともかく豆腐屋ギャグ。奉行が「あぶらげ(危なげ)の無いうちに帰れよ」というバージョンも。
忠臣蔵関連の落語はむずかしいなあ。