「峠の群像」の版間の差分

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[[画像:Kataoka2.jpg|thumb|役者絵:郷ひろみ]]
 
[[画像:Kataoka2.jpg|thumb|役者絵:郷ひろみ]]
 
「わしが迷っていてなぜ悪いのかぁっ!」
 
「わしが迷っていてなぜ悪いのかぁっ!」
  
堺屋太一原作
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全50話 堺屋太一原作
  
ストーリーは「倒産後も経営存続できますか?」という点が大きく取り上げられている。
 
  
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忠臣蔵がキライというヒトの中には「出てくる人がみんな立派すぎる」という点を上げる人いる。深作欣二監督などもそう言ってた。
  
以下のレビューはあくまで'''「総集編」の感想'''であり、近日、全話を見た感想を修正予定。
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この「峠の群像」は登場人物がひじょうに人間くさく描かれており、赤穂事件にまつわる「どうして」を、それらしいエピソードや人物描写で物語を構成することにより、どんな人だって正しいときや間違ってるときはあらぁな。というスタンスをつらぬき「とりたてて立派なわけではない」忠臣蔵を完成させた、まさに画期的と言っていい傑作。
  
なにしろ、感想がまったく違います。'''全話通しは星5つ'''でございます。
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誰もがうっすら持ってるオーソドックスな忠臣蔵ストーリーの各エピソードにおける「腑に落ちない部分」を、解消してくれるかのように丁寧に仕上げている。
  
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連絡の行き違いから畳替え事件が起こり、そのことで[[吉良上野介|吉良]]が[[柳沢吉保|柳沢]]に怒られるであるとか、ふつう[[上杉綱憲]]を制止する[[色部又四郎]]が率先して討ち入りされてる吉良家に出かけようとしたり。また、大きな特徴としては「倒産後も経営存続できますか?」という点が大きく取り上げられていたり(原作者が経済評論家だからか)。
  
松の廊下事件までの経緯が非常に印象的。これまでのマジメで病弱な[[浅野内匠頭]]像とうってかわって、隆大介の浅野は骨太で、何年も前から塩のことなどで[[吉良上野介|吉良]](伊丹十三)と正面からやりあって折り合いが悪く、空気が悪い。いつ刃傷沙汰になってもおかしくないかんじで自然に「ケンカ」がもりあがっていく。浅野の「短慮」ぶりが最も上手に演出されてるドラマではなかろうか。
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ふんだんな斬新なアプローチはなんだかどれも「ありそう」でおもしろい。
  
大河ドラマ(連続ドラマ)は総集編で見るとどうしてもリズムが独特になってしまうので、作品の善し悪しの判断がつきにくいが、それにしてもこの作品、残念ながら一本調子で抑揚がなく、そのムードが首尾一貫しており、キャラも豊かに膨らんでいない。
 
  
浅野と吉良の喧嘩シーンがリアルだったまでは良かったが、以降一定のテンションなのだ。暗く重苦しい画作りの中で、みんなが無表情で思案し、悩み、相談かもめごとを繰り返すばかり。そしてときどき怒鳴る。
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出演者もいろいろ印象深い。
  
しかし、この「'''もっとも暗い忠臣蔵'''」は、当時としてはかなり斬新なアプローチだったのではなかろうか。これまでは絢爛な画作りがスタンダードだったわけだが、わざと人間臭くとらえた演出は、お茶の間にはリアルに写ったかもしれない。リアリティを追求したら肝心な「面白味」が欠落した。(とはいえ、聞くところによると、総集編には入ってなかったが、山科閑居で内蔵助がマスコミ(瓦版売り)に囲み取材みたいなことを受けるシーンがあったりなど、コミカルなところも大いにあったようです。)
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最大の魅力は緒形拳の演技で、この人はなんの役をやっても緒形拳なのだが、演技はみごとに登場人物になりきれる名優。心理描写が上手に描かれた内蔵助としては歴代ナンバー・ワンかも。
  
あるいはこれ、'''イケメン忠臣蔵'''をめざしたのかも!?なにしろ放送当時を知る何人かの友人によれば小林薫演じる[[不破数右衛門]]の人気は尋常じゃなかったそうである。それこそ「不破サマ〜」と。そう言われてみれば当時のジャニーズアイドルがいっぱい出ている(よっちゃんとかニッキとかヤックンとか2番手ばかりだが)。総集編を見るかぎり郷ひろみがわりと物語の中心にいるし。マツケンも準主役級だし…。ああ、かっこつけたクールな感じでまとめようとしたから、暗くて平坦な感じになっちゃったのかなあ。女性が見たらこの総集編でも違って見えるかもです。
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お家大変まではコミカルな要素も多かった昼行灯の彼が、赤穂藩がお取りつぶしとなり、うろたえ、迷いに迷い、耐えに耐える。そして討ち入りを決意してからは人相がすっかり変わってしまう。殺人者となる決心が演技に見て取れる。この、うろたえたり、精神状態が不安定になる内蔵助というのは見たことがない。まさに見所である。
  
平坦なキャラの中にあって、ラッキー7の関武志(大石の家僕役)が救い。なんにもしないが、彼は存在感だけでホッとさせてくれる。
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意外に印象的だったのが郷ひろみが演じる[[片岡源五右衛門]]で、殿様のそばにずっといただけに単独で吉良を打とうとする殺意に満ちた妖気を出しており、暗殺者を静かに演じきってて見直した。
  
'''役者っぷりがいいのは吉良の伊丹十三'''。ズバ抜けて魅力的であります。
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[[原惣右衛門]]をやった矢野宣(「新幹線大爆破」で発狂する商社マンで有名)がたえずトイレを我慢してるような顔つきで内蔵助のそばにいて、なにかというと怒鳴り散らすのがカンにさわったが、実はこれも見事な演出で、最終的に討ち入りの時、彼'''だけ'''が勝ちどきを上げるという徹底したKYキャラが仕上がっていたんで結果的に好感が持てた。
  
この作品はほかの忠臣蔵をかなりいっぱい見た末に見たが、どうやら四十七士っていうのはクールに描くだけじゃ魅力が発揮されない。どこかお間抜けな部分も併せ持った田舎侍たちが、迷ったり躊躇したりしながら不器用に働き、貧乏生活を元気にやけくそに乗り越え、見事あの大義を全うしたところにものすごさがあるのではないか。
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放送当時を知る何人かの友人によれば小林薫演じる[[不破数右衛門]]の人気は尋常じゃなかったそうである。それこそ「不破サマ〜」と。
  
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また伊丹十三の吉良もよく、「峠」の内容は記憶してないが伊丹はよかった、という人も多い。
  
ちなみに、当時の制作発表の時にプロデューサーが「史実に忠実な、実態に近い作品にする」と言ったらしいのだが、フタを開けてみたら内容はその筋の人から見ると相当ヤバかったらしく、あるオーソリティーの先生は放送終了後10年以上も後に発行された著書<small>(*1)</small>でわざわざ蒸し返し、1章まるまる「あの峠の群像なんてちっとも忠実ではない」という検証に当てているほどである。そういうのがこわいんでこのサイトはもう、アッチコッチに「講談本がソースです」と書きまくりましたw。
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ジャニーズ勢がたくさんでており、キョンキョンや三田寛子(おかる)も出ている。
  
*1…飯尾精氏著「異議あり忠臣蔵」
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さて、この作品は現在総集編がDVDで見られるが、総集編というのは結局ストーリーをおおざっぱに追うので、はじめ総集編だけしか見てなかったときは感想がまったく違った。
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「一本調子で抑揚がなく、そのムードが首尾一貫しており、キャラも豊かに膨らんでいない。暗く重苦しい画作りの中で、みんなが無表情で思案し、悩み、相談かもめごとを繰り返すばかり。そしてときどき怒鳴る。'''もっとも暗い忠臣蔵'''」とまったく逆の酷評をした。
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ドラマのおもしろさというのはいろんな肉付けにあるわけで、贅肉をそぎ落としちまって総集編なんて作っちゃうと、単に風変わりな「忠臣蔵」ってことになってしまうのだ。
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総集編には気をつけたい。
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数ある「忠臣蔵」ものの中でも、史実的にはひじょうにまっとうな再現をしている作品だそうであるが、演出面での現代的なアプローチが琴線に触れて、飯尾精氏は「異議あり忠臣蔵」の中で本作をいろいろダメ出しをしている。
  
  

2010年6月6日 (日) 04:17時点における版

作品概要
制作会社 NHK
公開年度 1982年
内蔵助役 緒形拳
評価 5ツ星
役者絵:郷ひろみ

「わしが迷っていてなぜ悪いのかぁっ!」

全50話 堺屋太一原作


忠臣蔵がキライというヒトの中には「出てくる人がみんな立派すぎる」という点を上げる人いる。深作欣二監督などもそう言ってた。

この「峠の群像」は登場人物がひじょうに人間くさく描かれており、赤穂事件にまつわる「どうして」を、それらしいエピソードや人物描写で物語を構成することにより、どんな人だって正しいときや間違ってるときはあらぁな。というスタンスをつらぬき「とりたてて立派なわけではない」忠臣蔵を完成させた、まさに画期的と言っていい傑作。

誰もがうっすら持ってるオーソドックスな忠臣蔵ストーリーの各エピソードにおける「腑に落ちない部分」を、解消してくれるかのように丁寧に仕上げている。

連絡の行き違いから畳替え事件が起こり、そのことで吉良柳沢に怒られるであるとか、ふつう上杉綱憲を制止する色部又四郎が率先して討ち入りされてる吉良家に出かけようとしたり。また、大きな特徴としては「倒産後も経営存続できますか?」という点が大きく取り上げられていたり(原作者が経済評論家だからか)。

ふんだんな斬新なアプローチはなんだかどれも「ありそう」でおもしろい。


出演者もいろいろ印象深い。

最大の魅力は緒形拳の演技で、この人はなんの役をやっても緒形拳なのだが、演技はみごとに登場人物になりきれる名優。心理描写が上手に描かれた内蔵助としては歴代ナンバー・ワンかも。

お家大変まではコミカルな要素も多かった昼行灯の彼が、赤穂藩がお取りつぶしとなり、うろたえ、迷いに迷い、耐えに耐える。そして討ち入りを決意してからは人相がすっかり変わってしまう。殺人者となる決心が演技に見て取れる。この、うろたえたり、精神状態が不安定になる内蔵助というのは見たことがない。まさに見所である。

意外に印象的だったのが郷ひろみが演じる片岡源五右衛門で、殿様のそばにずっといただけに単独で吉良を打とうとする殺意に満ちた妖気を出しており、暗殺者を静かに演じきってて見直した。

原惣右衛門をやった矢野宣(「新幹線大爆破」で発狂する商社マンで有名)がたえずトイレを我慢してるような顔つきで内蔵助のそばにいて、なにかというと怒鳴り散らすのがカンにさわったが、実はこれも見事な演出で、最終的に討ち入りの時、彼だけが勝ちどきを上げるという徹底したKYキャラが仕上がっていたんで結果的に好感が持てた。

放送当時を知る何人かの友人によれば小林薫演じる不破数右衛門の人気は尋常じゃなかったそうである。それこそ「不破サマ〜」と。

また伊丹十三の吉良もよく、「峠」の内容は記憶してないが伊丹はよかった、という人も多い。

ジャニーズ勢がたくさんでており、キョンキョンや三田寛子(おかる)も出ている。


さて、この作品は現在総集編がDVDで見られるが、総集編というのは結局ストーリーをおおざっぱに追うので、はじめ総集編だけしか見てなかったときは感想がまったく違った。

「一本調子で抑揚がなく、そのムードが首尾一貫しており、キャラも豊かに膨らんでいない。暗く重苦しい画作りの中で、みんなが無表情で思案し、悩み、相談かもめごとを繰り返すばかり。そしてときどき怒鳴る。もっとも暗い忠臣蔵」とまったく逆の酷評をした。

ドラマのおもしろさというのはいろんな肉付けにあるわけで、贅肉をそぎ落としちまって総集編なんて作っちゃうと、単に風変わりな「忠臣蔵」ってことになってしまうのだ。

総集編には気をつけたい。


数ある「忠臣蔵」ものの中でも、史実的にはひじょうにまっとうな再現をしている作品だそうであるが、演出面での現代的なアプローチが琴線に触れて、飯尾精氏は「異議あり忠臣蔵」の中で本作をいろいろダメ出しをしている。


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緒形拳 出演, 松平健 出演