「忠臣蔵」の版間の差分

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{{Cinema|制作=フジテレビ|公開=1996|内蔵助=北大路欣也|星=3|=}}
| colspan="2" align="center" |'''作品概要'''
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[[画像:OOTAKA.jpg|thumb|役者絵:平田 満]]
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! 制作会社
 
| フジテレビ
 
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! 公開年度
 
| 1996年
 
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! 内蔵助役
 
| 北大路欣也
 
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! 評価
 
| ★★
 
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突飛なアイデアも無く、大胆な演出も無く、非常に無難に話が進む。可もなく不可もない平均点的なオーソドックスなドラマ。
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フジテレビ系列の連続ドラマ。
  
かといってビギナーが見ると、展開に起伏があんまり無く退屈するかもなので(連ドラだから長丁場になる)、ひととおり知ってる人のおさらいに見るには安心して見られる作品。
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プロデューサーの野村庸一([[忠臣蔵 風の巻・雲の巻|仲代達矢の「忠臣蔵」]]の人)が、市川歌右衛門のドキュメンタリーを作ってる最中に「(歌右衛門の息子の)北王子欣也で行けるかも」と思い立って、企画に至る。
  
浪曲キャラ村上喜剣が登場するのが珍しいが、これもひじょうにやさしく描かれている。
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スタッフもノリノリで制作にあたったそうで、結果、放送当時評判もよく高視聴率をマークし、北王子欣也は存命だった歌右衛門や[[赤穂浪士 天の巻・地の巻|松田定次(映画監督)]]にも彼の「内蔵助」を褒められたと言う。(出典:「実録テレビ時代劇史」)
  
意外にファンが多い作品。
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突飛なアイデアも無く、大胆な演出も無く、スピード感があるわけでもなく、非常に無難に話が進む。可もなく不可もない平均点的な優等生的なオーソドックスな'''草食系忠臣蔵'''。エアコンがいい感じに効いてる図書館みたいな印象で、食事中でも療養中でも、いつビデオを再生してもカンにさわらない。
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あんまりほめてないように聞こえるかもしれないが、連ドラでこうした「退屈しない」ペース配分は意外にむずかしく、昭和時代の作品にはどこかしら中だるみが出てくるものだが、本作品にはそれが無い。
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生き残った浪士、[[寺坂吉右衛門]](ここでは内蔵助の家で完全に下男奉公してる)の回想というかかたちで、彼を全体の語り部に配している。
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ビギナーが見ると、「ああ忠臣蔵ってこういう話なのか」と理解しやすい。
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細かい表現にしても気を遣ってるようで、あえて[[畳屋]]に「殿様が俺たちに頭を下げている」と感動させて、時代劇離れしている視聴者には「全部同じちょんまげ」に見える登場人物の上下関係をはっきり説明したり、「私はなんの苦労もなく育ってきて辛抱なんてしたことがないから、吉良さんのあの態度はつらい」と[[浅野内匠頭|内匠頭]]にわざわざ説明的にグチらせるなど、見慣れた忠臣蔵的相関関係に新鮮な空気を取り入れて、新しい世代にもわかりやすくアプローチしており、親切。(加筆:あらためて[[忠臣蔵 風の巻・雲の巻|仲代版]]を見てみたら同じセリフがあったので、特にこの作品の特徴というわけではない。脚本は本作と同じ古田求氏)
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本編を「草食系」と感じた理由は、なんなのか。
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キャスティングは手堅い。メインの役者は決して淡白ではない。寺坂の寺尾聰や、このあと何度も内蔵助をやる北大路欣也、また、[[堀部安兵衛|安兵衛]]の世良公則[[吉良上野介|(12月14日生まれ)]]は友人やネット上の評判もよい。
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安兵衛だけの「高田の馬場」エピソードも特別版で用意されて、これは肉食的に脂ぎっている。おじさんの[[菅野六郎左衛門]]を竜 雷太がやってるのだが、まさに先輩ゴリさんとボギー刑事がだぶるので「太陽にほえろ!」ファンにはうれしい七曲署的な高田の馬場である。<small>※註01</small>
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[[清水一学]]の隆大介もすごく熱量を感じる役者さんだ。隆一学は安兵衛の友人時代は話せるやつで良いキャラになりそうだったが、吉良側に雇われたとたん情け容赦ない冷酷無比なキャラになってしまってつまんない。
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吉良の平幹二朗だって決して草食的イメージではない。むしろ歴代の吉良役の中でもそうとうギラギラしてる役者さんだ。(ラスト、上野介の平幹二朗のヅラから地毛みたいのがはみでてるように見えるんだけど、ありゃなんでしょう。)
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ちなみにプロデューサー能村庸一氏の談話によると、準備期にスタッフと古い忠臣蔵作品を見てたとき、女性スタッフが「おじいちゃんを、よってたかってかわいそう」とコメントしたと言い、それが本作品の吉良をじゃっかん若めの平幹二郎でキャスティングするきっかけとなったそうだ。<small>※註02</small>
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良し悪しはともかく、画面の隅々まで。ほどよくいきわたった印象の照明のソフトな明るさと、レフの光をガッツリ受け止めた役者の顔が、絵ヅラ全体の濃淡を飛ばしてサラッとさせている。一枚トレーシングペーパーを添えたかのような。…もしやコレが油を吸い取ってる?。
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そして衣裳に特別な個性がない。江戸でお勤め中の裃〜討ち入り装束まで、赤穂のお侍はまるで制服のようにおなじ色味でコーディネートされており、元禄の絢爛なイメージとは程遠い絵作りとなっている。
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また、サブに扱われている四十七士はもしも中盤で配役をこっそり取り変えても気づかないような、なんというか、'''人種的に似た感じ'''のバイプレーヤーが固めている。
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で、実は意外に象徴的なんではないかと思うのがタイトルロゴで、筆文字だが、線が細く、スレンダーなのであります(^∇^; )。
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要は、全体的にやんわりした、だれも傷つけないムードが草食系なかんじなのかもしれません。
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四の五のと申し上げたが、意外にファンが多い作品で、もりいが最初に登場人物を覚えるのに教科書がわりに使った作品。
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註01…スペシャル番組が入った関係で放送予定日がずれ、コレだと討ち入りが1月中旬になっちゃうのでこのエピソードだけ連ドラからはずし、別枠で放送されたとか。
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註02…上記とともに、泉岳寺での時代劇専門チャンネルのイベントにて氏が談話。(2009.12.10)
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[[Category:くすおの忠臣蔵作品評|1996]]

2021年5月3日 (月) 17:22時点における版

作品概要
制作会社 フジテレビ
公開年度 1996年
内蔵助役 北大路欣也
評価 3ツ星
役者絵:平田 満

フジテレビ系列の連続ドラマ。

プロデューサーの野村庸一(仲代達矢の「忠臣蔵」の人)が、市川歌右衛門のドキュメンタリーを作ってる最中に「(歌右衛門の息子の)北王子欣也で行けるかも」と思い立って、企画に至る。

スタッフもノリノリで制作にあたったそうで、結果、放送当時評判もよく高視聴率をマークし、北王子欣也は存命だった歌右衛門や松田定次(映画監督)にも彼の「内蔵助」を褒められたと言う。(出典:「実録テレビ時代劇史」)


突飛なアイデアも無く、大胆な演出も無く、スピード感があるわけでもなく、非常に無難に話が進む。可もなく不可もない平均点的な優等生的なオーソドックスな草食系忠臣蔵。エアコンがいい感じに効いてる図書館みたいな印象で、食事中でも療養中でも、いつビデオを再生してもカンにさわらない。

あんまりほめてないように聞こえるかもしれないが、連ドラでこうした「退屈しない」ペース配分は意外にむずかしく、昭和時代の作品にはどこかしら中だるみが出てくるものだが、本作品にはそれが無い。


生き残った浪士、寺坂吉右衛門(ここでは内蔵助の家で完全に下男奉公してる)の回想というかかたちで、彼を全体の語り部に配している。

ビギナーが見ると、「ああ忠臣蔵ってこういう話なのか」と理解しやすい。

細かい表現にしても気を遣ってるようで、あえて畳屋に「殿様が俺たちに頭を下げている」と感動させて、時代劇離れしている視聴者には「全部同じちょんまげ」に見える登場人物の上下関係をはっきり説明したり、「私はなんの苦労もなく育ってきて辛抱なんてしたことがないから、吉良さんのあの態度はつらい」と内匠頭にわざわざ説明的にグチらせるなど、見慣れた忠臣蔵的相関関係に新鮮な空気を取り入れて、新しい世代にもわかりやすくアプローチしており、親切。(加筆:あらためて仲代版を見てみたら同じセリフがあったので、特にこの作品の特徴というわけではない。脚本は本作と同じ古田求氏)


本編を「草食系」と感じた理由は、なんなのか。

キャスティングは手堅い。メインの役者は決して淡白ではない。寺坂の寺尾聰や、このあと何度も内蔵助をやる北大路欣也、また、安兵衛の世良公則(12月14日生まれ)は友人やネット上の評判もよい。

安兵衛だけの「高田の馬場」エピソードも特別版で用意されて、これは肉食的に脂ぎっている。おじさんの菅野六郎左衛門を竜 雷太がやってるのだが、まさに先輩ゴリさんとボギー刑事がだぶるので「太陽にほえろ!」ファンにはうれしい七曲署的な高田の馬場である。※註01

清水一学の隆大介もすごく熱量を感じる役者さんだ。隆一学は安兵衛の友人時代は話せるやつで良いキャラになりそうだったが、吉良側に雇われたとたん情け容赦ない冷酷無比なキャラになってしまってつまんない。

吉良の平幹二朗だって決して草食的イメージではない。むしろ歴代の吉良役の中でもそうとうギラギラしてる役者さんだ。(ラスト、上野介の平幹二朗のヅラから地毛みたいのがはみでてるように見えるんだけど、ありゃなんでしょう。)

ちなみにプロデューサー能村庸一氏の談話によると、準備期にスタッフと古い忠臣蔵作品を見てたとき、女性スタッフが「おじいちゃんを、よってたかってかわいそう」とコメントしたと言い、それが本作品の吉良をじゃっかん若めの平幹二郎でキャスティングするきっかけとなったそうだ。※註02


となると、「撮り方」がサラッとしてるのが草食的印象の原因か。

良し悪しはともかく、画面の隅々まで。ほどよくいきわたった印象の照明のソフトな明るさと、レフの光をガッツリ受け止めた役者の顔が、絵ヅラ全体の濃淡を飛ばしてサラッとさせている。一枚トレーシングペーパーを添えたかのような。…もしやコレが油を吸い取ってる?。

そして衣裳に特別な個性がない。江戸でお勤め中の裃〜討ち入り装束まで、赤穂のお侍はまるで制服のようにおなじ色味でコーディネートされており、元禄の絢爛なイメージとは程遠い絵作りとなっている。

また、サブに扱われている四十七士はもしも中盤で配役をこっそり取り変えても気づかないような、なんというか、人種的に似た感じのバイプレーヤーが固めている。

で、実は意外に象徴的なんではないかと思うのがタイトルロゴで、筆文字だが、線が細く、スレンダーなのであります(^∇^; )。

要は、全体的にやんわりした、だれも傷つけないムードが草食系なかんじなのかもしれません。


四の五のと申し上げたが、意外にファンが多い作品で、もりいが最初に登場人物を覚えるのに教科書がわりに使った作品。


註01…スペシャル番組が入った関係で放送予定日がずれ、コレだと討ち入りが1月中旬になっちゃうのでこのエピソードだけ連ドラからはずし、別枠で放送されたとか。

註02…上記とともに、泉岳寺での時代劇専門チャンネルのイベントにて氏が談話。(2009.12.10)