「忠臣蔵 暁の陣大鼓」の版間の差分

提供: Kusupedia
移動先: 案内検索
3行目: 3行目:
 
ガチッとした作りの[[堀部安兵衛|安兵衛]]ものがたり。
 
ガチッとした作りの[[堀部安兵衛|安兵衛]]ものがたり。
  
主役を演じるのは当時のホープ俳優、森美樹。彼は若くしてガス中毒で亡くなったそうだが、この作品の公開年周辺はコンスタントに年に5〜6本映画に出ており、松竹のチカラの入れようがわかる。
+
主役を演じるのは当時のホープ俳優、森美樹。彼はこの数年後に、若くしてガス中毒で亡くなったそうだが、この作品の公開年周辺はコンスタントに年に5〜6本映画に出ており、松竹のチカラの入れようがわかる。
  
 +
彼のイケメンで大柄な安兵衛は、ダイナミックで好感度が高い。
  
新発田藩時代〜討ち入りまでを見つめ続ける、意外に珍しいロングスパンのストーリー。たいがい安兵衛を主役に立てる場合は、高田馬場を含めたケンカ安のハナシが映像化される。そして堀部家に婿入りするところで終わる。
 
  
これは浪人時代と仕官時代では周辺の事情やキャラクターがまるっきり変わってしまうから作品として一貫性がなくなるのでそうするわけだが、本作品は浅野家時代のエピソードはすっぽり抜いて、安兵衛をまた古住まいの長屋に帰すことで討ち入りまでを持たそうと挑戦している。それも道場経営者ではなく「町人」として。
+
新発田藩時代〜討ち入りまでを見つめ続ける、意外に珍しいロングスパンのストーリーライン。
  
それだと[[堀部弥兵衛|弥兵衛]]や[[ホリ|お幸]]との新生活はどうしてくれるの?てことになるのだが、本作品の安さんは堀部と「離縁状態」。
+
たいがい安兵衛を主役に立てる場合は、高田馬場を含めたケンカ安のハナシが山場として映像化される。ゆとりがあれば、[[堀部弥兵衛|堀部家]]に婿入りするところで終わる。
  
オイオイと思うところだが、そもそもこの作品はあくまで、忠臣蔵だの堀部安兵衛をどうこうしようと言うより、森美樹をどう見せようかに心血を注いでいる作品で、りっぱなお侍の森美樹、不真面目なのんべえ浪人・森美樹、町人の森美樹。というバリエーション・ショーが主眼になってるのでストーリーにはいささか無理があってもしょうがないのかも。
+
これは、もちろん尺の問題が一番だろうが、浪人時代と仕官時代では周辺のテーマや事情、キャラクターがまるっきり変わって、二部構成になってしまい、作品として一貫性がなくなるので仕方がないのだろうが、本作品は'''浅野家時代のエピソードをすっぽり抜いて'''、安兵衛の浪人時代だけをキープすることで、ビジュアル的に煙にまかない工夫をしているように見える。
  
 +
ただ、それだと[[堀部弥兵衛|弥兵衛]]や[[ホリ|お幸]]との新生活はどうしてくれるの?てことになるのだが、本作品の安さんは堀部と「離縁状態」。
  
とはいえ、安兵衛の人生は前半と後半、やっぱり一緒にはならないわけで、この映画も前半のケンカ安時代は軽妙で超おもしろく呑気に見ていられるのだが、町人に身をやつして過去に住んでいた長屋で旧友の女社長(髪結いやのおかつ=嵯峨三智子)と半同棲みたいになってくると、ちょっとトーンダウン。
+
オイオイオイ!と思うところだが、そもそもこの作品は森美樹と髪結屋の瑳峨三智子とのラブストーリーに比重を置いているのでしょうがないのであります。「二人を見つづける映画」。(ちなみに、この二人はプライベートでも熱愛関係にあったという。)
  
キャラクターにいろいろコスプレさせるならそれぞれの魅力が必要なのだが、内蔵助をせっつく急進派の浪人ならまだしも、周囲から「仇討ちをやらないのかい、ケッ」とさげすまれる「町人」の安さんには魅力が欠ける。
 
  
そうは言っても映画全体は面白くまとまっており、気楽な一本。
+
それがわかっていないと、安兵衛の人生は前半と後半、同じロケーションでやっぱり一緒にはまとまらないわけで、この映画も前半のケンカ安時代は軽妙で超おもしろく呑気に見ていられる(生真面目な安さんが呑んべえ安になるきっかけもスムーズ。)のだが、御家断絶のあと、町人(!)に身をやつして過去に住んでいた長屋に舞い戻って嵯峨との同棲生活(しかも、ヒモ=文字通り髪結屋の女房)…と、なってくると、展開も超不自然だし、忠臣蔵物としてはトーンダウン。
  
 +
ていうか、そもそも赤穂事件の顛末は、鑑賞する日本人には知ってて当たり前という脚本になっており、字幕ベースの説明が一瞬あるだけで(前述のとおり浅野家時代の話が1カットも無い)安兵衛が小間物屋姿になっているし。とにかく平成以降の若者が見たら話についていけないかと。
  
あと、あんまり森さん、殺陣(たて)がうまくない?監督はそれをごまかそうと細かいカット割りでがんばっている。
+
実際は内蔵助をせっつく急進派の安さんが、本作のように周囲から「仇討ちをやらないのかい、ケッ」とさげすまれる「町人」の安さんになってしまては、キャラの魅力が欠ける。(<イデオロギーの違う、[[大石内蔵助]]の浮気や離縁をトレースしたのが間違い。ちなみに辞世も内蔵助のパクリになっている)
 +
 
 +
だからこれも、そんなかわいそうな森美樹を瑳峨三智子があたためてあげるのを御覧じろ、というのがこの作品の狙いなのでしょうがない。
 +
 
 +
 
 +
なんだかんだ言っても映画全体は面白くまとまっており、気楽な一本。
 +
 
 +
 
 +
あと、肝心な高田馬場の殺陣(たて)がうまくないのだが、森さんが得意じゃないのか、監督(坂井禅互)の演出のせいか、殺陣師が二刀流の振り付けが不得手だったのか不明。
 +
 
 +
討ち入りのとき、助成で両国橋で単身闘う(相手はどこの誰か、わかんない侍たち)、俵星玄蕃(近衛十四郎)のシーンのほうがたっぷりしてたりする。笑
 +
 
 +
 
 +
(附言)
 +
 
 +
2021年6月現在、Wikipediaに載ってないが、若き林与一氏が引き揚げシーンで大石主税として参列している。セリフは「ハイ」のみ。銀幕デビュー作品かもしれない。

2021年6月2日 (水) 13:53時点における版

作品概要
制作会社 松竹
公開年度 1958年
内蔵助役 (市川寿海)
評価 2ツ星


ガチッとした作りの安兵衛ものがたり。

主役を演じるのは当時のホープ俳優、森美樹。彼はこの数年後に、若くしてガス中毒で亡くなったそうだが、この作品の公開年周辺はコンスタントに年に5〜6本映画に出ており、松竹のチカラの入れようがわかる。

彼のイケメンで大柄な安兵衛は、ダイナミックで好感度が高い。


新発田藩時代〜討ち入りまでを見つめ続ける、意外に珍しいロングスパンのストーリーライン。

たいがい安兵衛を主役に立てる場合は、高田馬場を含めたケンカ安のハナシが山場として映像化される。ゆとりがあれば、堀部家に婿入りするところで終わる。

これは、もちろん尺の問題が一番だろうが、浪人時代と仕官時代では周辺のテーマや事情、キャラクターがまるっきり変わって、二部構成になってしまい、作品として一貫性がなくなるので仕方がないのだろうが、本作品は浅野家時代のエピソードをすっぽり抜いて、安兵衛の浪人時代だけをキープすることで、ビジュアル的に煙にまかない工夫をしているように見える。

ただ、それだと弥兵衛お幸との新生活はどうしてくれるの?てことになるのだが、本作品の安さんは堀部と「離縁状態」。

オイオイオイ!と思うところだが、そもそもこの作品は森美樹と髪結屋の瑳峨三智子とのラブストーリーに比重を置いているのでしょうがないのであります。「二人を見つづける映画」。(ちなみに、この二人はプライベートでも熱愛関係にあったという。)


それがわかっていないと、安兵衛の人生は前半と後半、同じロケーションでやっぱり一緒にはまとまらないわけで、この映画も前半のケンカ安時代は軽妙で超おもしろく呑気に見ていられる(生真面目な安さんが呑んべえ安になるきっかけもスムーズ。)のだが、御家断絶のあと、町人(!)に身をやつして過去に住んでいた長屋に舞い戻って嵯峨との同棲生活(しかも、ヒモ=文字通り髪結屋の女房)…と、なってくると、展開も超不自然だし、忠臣蔵物としてはトーンダウン。

ていうか、そもそも赤穂事件の顛末は、鑑賞する日本人には知ってて当たり前という脚本になっており、字幕ベースの説明が一瞬あるだけで(前述のとおり浅野家時代の話が1カットも無い)安兵衛が小間物屋姿になっているし。とにかく平成以降の若者が見たら話についていけないかと。

実際は内蔵助をせっつく急進派の安さんが、本作のように周囲から「仇討ちをやらないのかい、ケッ」とさげすまれる「町人」の安さんになってしまては、キャラの魅力が欠ける。(<イデオロギーの違う、大石内蔵助の浮気や離縁をトレースしたのが間違い。ちなみに辞世も内蔵助のパクリになっている)

だからこれも、そんなかわいそうな森美樹を瑳峨三智子があたためてあげるのを御覧じろ、というのがこの作品の狙いなのでしょうがない。


なんだかんだ言っても映画全体は面白くまとまっており、気楽な一本。


あと、肝心な高田馬場の殺陣(たて)がうまくないのだが、森さんが得意じゃないのか、監督(坂井禅互)の演出のせいか、殺陣師が二刀流の振り付けが不得手だったのか不明。

討ち入りのとき、助成で両国橋で単身闘う(相手はどこの誰か、わかんない侍たち)、俵星玄蕃(近衛十四郎)のシーンのほうがたっぷりしてたりする。笑


(附言)

2021年6月現在、Wikipediaに載ってないが、若き林与一氏が引き揚げシーンで大石主税として参列している。セリフは「ハイ」のみ。銀幕デビュー作品かもしれない。