「新春ワイド時代劇 忠臣蔵〜その義その愛」の版間の差分

提供: Kusupedia
移動先: 案内検索
(2人の利用者による、間の22版が非表示)
3行目: 3行目:
 
主人公は内野聖陽の[[堀部安兵衛]]。
 
主人公は内野聖陽の[[堀部安兵衛]]。
  
正月恒例のテレ東の7時間ドラマ。
+
正月恒例のテレ東の7時間ドラマ(7話完結)。
  
  
お家断絶後の、上方の長分別に待ちくたびれる江戸の浪士の話がメインで、[[堀部安兵衛|安兵衛]]と[[大石内蔵助|内蔵助]]の温度差〜緊張感が上手に描かれており、それなりの意欲作。
+
お家断絶後の、上方の長分別に待ちくたびれる江戸の浪士の話がメインで、[[堀部安兵衛|安兵衛]]と[[大石内蔵助|内蔵助]]の温度差〜緊張感が上手に描かれており、それなりの意欲作。特に第1話は愉快で整っており、イキオイも良い。
  
 
安兵衛の気性はこんな感じでなくっちゃ、というイメージをいいかんじに内野聖陽が演じきっていて、良かった。
 
安兵衛の気性はこんな感じでなくっちゃ、というイメージをいいかんじに内野聖陽が演じきっていて、良かった。
13行目: 13行目:
  
  
役者さんを讃えて最初は三つ星だったが、放送から一ヶ月経っても以下のモヤモヤが解消されないので二つ星に変更しました。
+
役者さんやドラマの持つ独特の鼻息に魅せられて最初は三つ星だったが、放送から一ヶ月経っても以下のモヤモヤが解消されないので二つ星に変更しました。
  
  
とにかくビジュアル的にも、バックグラウンド的にも、「堀部安兵衛」を形作るときに欲しいトレードマークといえる素材の全部が捨てられた。コレは痛かった。
+
まず「堀部安兵衛」を形作るときに欲しいトレードマークといえる素材がいろいろが捨てられていたことは、「安兵衛物語」ファンのあたしには痛く、あとを引いた。
  
安兵衛像にほしかった要素としては、赤鞘、黒羽二重、大酒飲み、あだ名、けんか仲裁、バラエティ豊かな長屋の住人(本作ではじゅっぱひとからげに"町民")、面倒見てくれてるとなりの糊屋のばばあ、[[中津川友範]]、[[堀部弥兵衛|弥兵衛]]父娘の馬場の目撃〜たすきのエピソード、弥兵衛の日参、好敵手・[[清水一学]]、畳替え事件での活躍、「よけいな事をするな親不孝者!」など、'''以上のすべてが無い'''。
+
本作をぼんやりと思い出すとき、「アレがなかったなあ・・」と、大酒飲み、あだ名、けんか仲裁、糊屋のばばあ、[[中津川友範]]、[[堀部弥兵衛|弥兵衛]]父娘の馬場の目撃〜たすきのエピソード、畳替え事件での活躍、「よけいな事をするな親不孝者!」といった、失われた数々の「定番」のあれこれに指を折る。コレは割愛し過ぎだ。
  
定番の具を全部捨てられて「コレも美味しいと思いますけど」と食べたこともない、でもそれなりに美味しい具で、それでいて「広島風お好み焼き」「大阪風たこ焼き」という定番の肩書きのシロモノを差し出されたような違和感と言ったら通じるだろうか。
+
安兵衛と道場仲間の吉良側キャラとの友情がたいへん素敵なのに、その友の名は[[清水一学]]ではない。ファン、置いてけぼり。
  
安兵衛と道場仲間の吉良側キャラとの友情をわざわざ用意しておきながら、その名を清水一学としなかった理由はナニか??
+
この融通は「みんなで忠臣蔵世界を楽しみましょう」という気合を欠いている。
  
  
ヘルメットをかぶってない&ボスキャラのデザインがまるで違う映画「CASSHERN」とか、人を殺さない!?戦国忍者「RED SHADOW 赤影」とかを思い出した。なんで近年のリメイクはわざわざ定番をぶちこわすのだろう??
+
ヘルメットをかぶってない&ボスキャラのデザインがまるで違う映画「CASSHERN」とか、人を殺さない主義の!?戦国忍者「RED SHADOW 赤影」とかを思い出した。
  
大好きな娯楽時代劇「逃亡者(のがれもの)おりん」もやってるプロデューサーなのに、あのサービス精神に富んだ人が、どうしてビジュアルや設定にこだわらなかったのか??不可解千万!(<吉良の台詞)。
+
なんで近年のリメイクはわざわざ定番をぶちこわすのか?
  
おりんのボディスーツ姿に短パン履かすくらい残念だった。
+
史実を重んじてヒゲを取っ払った石坂浩二さんの「水戸黄門」がどういう評判だったかをなぜ、簡単に忘れてしまうのか!?
  
 +
大好きな娯楽時代劇「逃亡者(のがれもの)おりん」もやってるプロデューサーなのに、あのサービス精神に富んだ人が、どうしてディティールや設定にこだわらなかったのか??不可解千万!(<本作の吉良の台詞)。
  
じゃっかん、弁護すると、そうした要素を「知らなかった」というわけでは無さそうなんですな。それらの要素を彷彿とさせるものが別のカタチで出てくるので、なにか考えはおありだったのでしょう。お茶の間の安兵衛ファンには伝わってこないけど。
+
おりんのボディスーツ姿に短パン履かすくらい残念だった。
  
黒羽二重は最近放送されたドラマ「JIN〜仁〜」で内野聖陽が演じた龍馬像とかぶっちゃうから避けたかもしれない。
 
  
また、全体のムードから言えば、あまり中山姓時代の安兵衛を豊かに描きすぎると、後半の仕官〜断絶〜討ち入りとのコントラストがむずかしくなるので割愛したのかも。たしかに過去の安兵衛作品にはそこんところがアンバランスなものもあった。
+
さて、どっさり断舎利したからにはあとによほど見せ場があるのだろうと期待が高まるが、2話目のお家大変以降はのらりくらりの内蔵助のようすにじれこんだ江戸浪士のようすが暗く重い。これが少なくとも5話目ぐらいまで延々と続く。(展開もさることながら、舘ひろしの内蔵助が重厚すぎて余裕が無く息苦しい。)
  
 +
また、脱盟者が言い分として「わたしは殿の顔も見たことないのに、なんのために貧乏してまでXデーを待ってなくちゃいけないんだ??」というような、歴史バラエティに出てくるような'''こざかしい視点の近代的な発想'''をふりかざすのが甚だナンセンス。(似たニュアンスのセリフは「 [[東芝日曜劇場 女たちの忠臣蔵〜いのち燃ゆる時〜|女たちの忠臣蔵]]」や「[[最後の忠臣蔵]](TV版)」にもあるが、あくまで死にゆこうとする浪士との別れを惜しむ女が駄々をこねる際に出てくるセリフ。家来や家臣には顔を知る知らないよりも代々禄をもらってる大恩があるのだ。)
  
さて
+
このセリフに象徴されるような、反封建制的なやりとりが随所にうかがえ、長時間ドラマにつきあってくたびれたこっちの心持ちにそのハイカラな価値観は簡単にリンクし、急進派が逸る理由が「とにかくやっつけたい!」という戦をしたくてワクワクしてる一途な血気からではなく「テンション保てなさそうだから…」と映りはじめると、いつの間にか「じゃあ討ち入りやめちゃえばいいのに」などと画面に声を掛けたくなってる自分がいる。
  
内蔵助の長分別を待ってる浪士をあんまり説得力を入れて描くと、現代人は脱盟者に同調してしまう。
+
これ、ダメでしょう。
  
あと、脱盟者の言い分として「わたしは殿の顔も見たことないのに、なんのために貧乏してまでXデーを待ってなくちゃいけないんだ??」という、歴史バラエティに出てくるようなこざかしい視点の台詞はドラマにはまったく不要。ていうか顔を知る知らないよりも前に代々禄をもらってる大きな恩があるのに…。そんな'''近代的'''なことを言う武士の存在をわざわざ登場させるのはナンセンスの極み。「このチョンマゲ頭って、ヘンなヘアスタイルだと思わないかっ??」って時代劇で言うくらいあり得ない。
 
  
随所にこれに似た、当時を反映しない近代的な台詞が散りばめられ、結果7時間もドラマにつきあってるお茶の間のくたびれた心持ちにそのハイカラな価値観は簡単にリンクしちゃって、「討ち入りたい」浪士たちへの執着が剥がされる。
+
1950年代に脱盟者に焦点を当てた作品が量産されたがやがて路線がまた本寸法に戻った。評論家の佐藤忠夫さん曰わく「'''「忠臣蔵」は期待通りにハナシが進展しないと観衆の不興を買う。'''」
 
 
しまいには「悲願」の成就というテーマがブレて、最終的にわたしには討ち入りがじゃっかん殺伐としたものに見えました。
 
  
 
+
あるいは二度の「忠臣蔵」([[ 忠臣蔵 風の巻・雲の巻|仲代版]]。[[忠臣蔵|北大路版]])を成功させたプロデューサー能村庸一氏は著書で曰わく「'''忠臣蔵はオーソドックスにかぎる。'''」
1950年代に脱盟者に焦点を当てた作品が量産されたがやがて路線がまた本寸法に戻った。評論家の佐藤忠夫さん曰わく「'''「忠臣蔵」は期待通りにハナシが進展しないと観衆の不興を買う。'''」
 
  
  
いつか、300年以上つづいてる定番を受け継いだ新作を見て「そうこなくっちゃ!」「待ってました!」と叫んでみたいと、心から待ちわびております。
+
いつか、260年以上つづいてる定番を受け継いだ新作を見て「そうこなくっちゃ!」「待ってました!」と叫んでみたいと、心から待ちわびております。
  
  
60行目: 57行目:
 
「よんどころな仕儀」とか「家の女子」(<セリフでは"武家のおなご")とか、放送中の字幕に脱字アリ。あと、ヘンな奴を指すときの「かぶきもの」って「歌舞伎」っていう漢字を当てていいの??
 
「よんどころな仕儀」とか「家の女子」(<セリフでは"武家のおなご")とか、放送中の字幕に脱字アリ。あと、ヘンな奴を指すときの「かぶきもの」って「歌舞伎」っていう漢字を当てていいの??
  
凶報の第2の使者の[[原惣右衛門]]が評定の場で内蔵助が「殿は切腹した」とみんなに知らせると、彼がみんなと一緒にビックリしてたのが笑った。おめえが教えてくれたんじゃねえかよ!(笑)
+
凶報の第2の使者の[[原惣右衛門]]が評定の場で内蔵助が「殿は切腹した」とみんなに知らせると、彼がみんなと一緒にビックリしてたのが笑った。あんたが知らせてくれた筈じゃねえかよ!(笑)
  
 
[[Category:くすおの忠臣蔵作品評|2012]]
 
[[Category:くすおの忠臣蔵作品評|2012]]

2021年2月12日 (金) 13:45時点における版

作品概要
制作会社 テレビ東京
公開年度 2012年
内蔵助役 舘ひろし
評価 2ツ星


主人公は内野聖陽の堀部安兵衛

正月恒例のテレ東の7時間ドラマ(7話完結)。


お家断絶後の、上方の長分別に待ちくたびれる江戸の浪士の話がメインで、安兵衛内蔵助の温度差〜緊張感が上手に描かれており、それなりの意欲作。特に第1話は愉快で整っており、イキオイも良い。

安兵衛の気性はこんな感じでなくっちゃ、というイメージをいいかんじに内野聖陽が演じきっていて、良かった。

あと、ホリ役の常盤貴子もすばらしかったです。


役者さんやドラマの持つ独特の鼻息に魅せられて最初は三つ星だったが、放送から一ヶ月経っても以下のモヤモヤが解消されないので二つ星に変更しました。


まず「堀部安兵衛」を形作るときに欲しいトレードマークといえる素材がいろいろが捨てられていたことは、「安兵衛物語」ファンのあたしには痛く、あとを引いた。

本作をぼんやりと思い出すとき、「アレがなかったなあ・・」と、大酒飲み、あだ名、けんか仲裁、糊屋のばばあ、中津川友範弥兵衛父娘の馬場の目撃〜たすきのエピソード、畳替え事件での活躍、「よけいな事をするな親不孝者!」といった、失われた数々の「定番」のあれこれに指を折る。コレは割愛し過ぎだ。

安兵衛と道場仲間の吉良側キャラとの友情がたいへん素敵なのに、その友の名は清水一学ではない。ファン、置いてけぼり。

この融通は「みんなで忠臣蔵世界を楽しみましょう」という気合を欠いている。


ヘルメットをかぶってない&ボスキャラのデザインがまるで違う映画「CASSHERN」とか、人を殺さない主義の!?戦国忍者「RED SHADOW 赤影」とかを思い出した。

なんで近年のリメイクはわざわざ定番をぶちこわすのか?

史実を重んじてヒゲを取っ払った石坂浩二さんの「水戸黄門」がどういう評判だったかをなぜ、簡単に忘れてしまうのか!?

大好きな娯楽時代劇「逃亡者(のがれもの)おりん」もやってるプロデューサーなのに、あのサービス精神に富んだ人が、どうしてディティールや設定にこだわらなかったのか??不可解千万!(<本作の吉良の台詞)。

おりんのボディスーツ姿に短パン履かすくらい残念だった。


さて、どっさり断舎利したからにはあとによほど見せ場があるのだろうと期待が高まるが、2話目のお家大変以降はのらりくらりの内蔵助のようすにじれこんだ江戸浪士のようすが暗く重い。これが少なくとも5話目ぐらいまで延々と続く。(展開もさることながら、舘ひろしの内蔵助が重厚すぎて余裕が無く息苦しい。)

また、脱盟者が言い分として「わたしは殿の顔も見たことないのに、なんのために貧乏してまでXデーを待ってなくちゃいけないんだ??」というような、歴史バラエティに出てくるようなこざかしい視点の近代的な発想をふりかざすのが甚だナンセンス。(似たニュアンスのセリフは「 女たちの忠臣蔵」や「最後の忠臣蔵(TV版)」にもあるが、あくまで死にゆこうとする浪士との別れを惜しむ女が駄々をこねる際に出てくるセリフ。家来や家臣には顔を知る知らないよりも代々禄をもらってる大恩があるのだ。)

このセリフに象徴されるような、反封建制的なやりとりが随所にうかがえ、長時間ドラマにつきあってくたびれたこっちの心持ちにそのハイカラな価値観は簡単にリンクし、急進派が逸る理由が「とにかくやっつけたい!」という戦をしたくてワクワクしてる一途な血気からではなく「テンション保てなさそうだから…」と映りはじめると、いつの間にか「じゃあ討ち入りやめちゃえばいいのに」などと画面に声を掛けたくなってる自分がいる。

これ、ダメでしょう。


1950年代に脱盟者に焦点を当てた作品が量産されたがやがて路線がまた本寸法に戻った。評論家の佐藤忠夫さん曰わく「「忠臣蔵」は期待通りにハナシが進展しないと観衆の不興を買う。

あるいは二度の「忠臣蔵」(仲代版北大路版)を成功させたプロデューサー能村庸一氏は著書で曰わく「忠臣蔵はオーソドックスにかぎる。


いつか、260年以上つづいてる定番を受け継いだ新作を見て「そうこなくっちゃ!」「待ってました!」と叫んでみたいと、心から待ちわびております。


あ、蛇足を少々。

「よんどころな仕儀」とか「家の女子」(<セリフでは"武家のおなご")とか、放送中の字幕に脱字アリ。あと、ヘンな奴を指すときの「かぶきもの」って「歌舞伎」っていう漢字を当てていいの??

凶報の第2の使者の原惣右衛門が評定の場で内蔵助が「殿は切腹した」とみんなに知らせると、彼がみんなと一緒にビックリしてたのが笑った。あんたが知らせてくれた筈じゃねえかよ!(笑)