「新春大型時代劇スペシャル 大忠臣蔵」の版間の差分

提供: Kusupedia
移動先: 案内検索
1行目: 1行目:
 +
{{Cinema|制作=TBS|公開=1994|内蔵助=松方弘樹|星=4|頃=}}
  
 +
評判がいいのにリリースされない忠臣蔵。
 +
 +
これが正月に放送された1994年という年は、映画のほうでも[[四十七人の刺客|東宝]]も[[忠臣蔵外伝 四谷怪談|東映]]も忠臣蔵を作っている。
 +
 +
この松方弘樹版はひじょうに手堅い作りだし、東映は深作監督のワルノリ絶好調だし。東宝はアプローチが好評だったと記憶している。
 +
 +
しかし、この忠臣蔵ラッシュのあとはパタッと大作は続かない。おそらく「なんかさあ、もはや独参湯(どくじんとう:よく効く薬=興行すれば必ず大当たり)じゃなくね??バブル崩壊しちゃったしさあ、カネがかかるわりに客入らないからやめとこう」みたいなムードがメディア界に広まっちゃったんじゃないだろうか??「四十七人の刺客」は同年公開の「ゴジラVSスペースゴジラ」より振るわず、翌年から東宝はガメラ作って怪獣快進撃を始める。(東映はマンガ映画)
 +
 +
 +
さて、作品のほうはと申しますと、監督があの怪作「ノストラダムスの大予言」の舛田利雄だが、本編には人食い人種も巨大ナメクジも出てこず、全体的にはオーソドックスであるが、それでいてなぜかすごく見応えがある。撮り方に凝ってるわけでもなく、大胆な表現があるわけでもないのに、なぜ見応えがあるのか素人にはわからない舛田マジック。たぶん細かいオリジナリティを各所に入れてるのが案外うまくいってるのと、キャスティングがいいからでしょうか。
 +
 +
そう、間違いなく言えるのは、キャラクターが豊かにふくらんでて、そこにピッタンコな役者が当てられています。どの人も「早くまた出てこないかな」と思わせる魅力があります。そう、コレ大事なんですよね。忠臣蔵は登場人物が多いのだから「こいつは見てたっておもしろくねえや」って俳優は入れるべきではないんです。どんなにカネをかけてもここはがんばらないとイケナイ。忠臣蔵ファンだから言ってるのではなく、そうしないと「持たない」でしょう、ハナシ長いし。どうも近年はそこんところがおろそかな気がいたします。
 +
 +
本作は全編、浪士たちを中心に構成されており、[[柳沢吉保|柳沢]]の陰謀とか[[色部又四郎|上杉]]の間者とか、そういう理屈は一切出てこない。[[浅野内匠頭|内匠頭]]さえそんなに重厚に扱われていない。そういう整理の仕方もうまいのかもしれない。
 +
 +
役所広司の[[堀部安兵衛|安兵衛]]が印象的で、演技も役者持ち前のダイナミックさが申し分なく、彼がフレームインするとホッとする。主家断絶後は、彼ら急進派が自分たちだけで上野介を殺そうとはやり、小さな作戦を立てては失敗を重ねるのだが、このことで自然に敵が難攻不落なイメージに仕上がっていき、後半への期待を高める効果を生んでいる。
 +
 +
ほかにも川谷拓三の[[原惣右衛門]]が子だくさんでかかあ天下だったりとか、夏八木勲の[[不破数右衛門]]がなぜか病気で、討ち入りしながら吐血したり(八つ墓村でもそうだったがこの人血を吐くとき「あうっ」って声を出します)、安兵衛たちと別行動のアザー急進派「殿さまラブトリオ」の筆頭の[[片岡源五右衛門]]はマッチが役所広司と対照的なコントラストを出してたりと、いろんなキャラクターがさまざまな個性で登場し、オリジナルを壊さないようにキャラをおもしろくふくらませようとしてる。そんなスタッフのこころいきが存分に楽しめます。
 +
 +
マッチのほかに、内匠頭のヒガシ(は後年元禄繚乱でも同じ役をする)、[[大石主税|主税]]のTOKIO松岡、光GENJI(てまだこのころやってたのかしら?)の内海=[[矢頭右衛門七]]とかジャニーズ陣がうまく当てられてて、これがなかなか奮闘している。(右衛門七はほとんど出番はないけど)
 +
 +
特筆すべきは、愛妻家・[[小野寺十内]]の井川比佐志とお丹・長山藍子のキスシーン。初老のラブシーンも珍しいがこのふたり、寅さんのさくらと浩なのである(テレビ版男はつらいよ)。ファンにはたまらないサービスシーンだ。照れくさかったりびっくりしたり。
 +
 +
肝心な松方の[[大石内蔵助|内蔵助]]だけ、妙にセリフ回しがオーバーアクションなような気もしたが、大江戸捜査網や金さんで「豹変するキャラクター」を得意としてる彼は、祇園で遊ぶ彼と討ち入りを覚悟する内蔵助の変身ぶりをいいかんじで演じており、お茶の間的には安心して見られる。ただ、彼は5年後にもテレ東で内蔵助をやってるが、区別がつくほど演じ分けられているだろうか。
 +
 +
あと、特徴的なところは、意外にみんな口が軽い。もっとも作戦を部外者に口外する忠臣蔵ではあるまいか?
 +
 +
 +
平成21年現在、知る限りでは平成の忠臣蔵ではもっとも豪華だが、里見版より人気がないのは、なんというか、花をあしらったようなお茶の間向けの「優しさ」に欠けるからか?里見版ってペールトーンのイメージなんですが、こちらはビビッドなんですよね。大人向け?
 +
 +
 +
 +
WEB[http://www.age.ne.jp/x/satomako/TOP.htm 赤穂義士史料館]、館長様に見せていただきました。

2009年4月19日 (日) 15:47時点における版

作品概要
制作会社 TBS
公開年度 1994年
内蔵助役 松方弘樹
評価 4ツ星


評判がいいのにリリースされない忠臣蔵。

これが正月に放送された1994年という年は、映画のほうでも東宝東映も忠臣蔵を作っている。

この松方弘樹版はひじょうに手堅い作りだし、東映は深作監督のワルノリ絶好調だし。東宝はアプローチが好評だったと記憶している。

しかし、この忠臣蔵ラッシュのあとはパタッと大作は続かない。おそらく「なんかさあ、もはや独参湯(どくじんとう:よく効く薬=興行すれば必ず大当たり)じゃなくね??バブル崩壊しちゃったしさあ、カネがかかるわりに客入らないからやめとこう」みたいなムードがメディア界に広まっちゃったんじゃないだろうか??「四十七人の刺客」は同年公開の「ゴジラVSスペースゴジラ」より振るわず、翌年から東宝はガメラ作って怪獣快進撃を始める。(東映はマンガ映画)


さて、作品のほうはと申しますと、監督があの怪作「ノストラダムスの大予言」の舛田利雄だが、本編には人食い人種も巨大ナメクジも出てこず、全体的にはオーソドックスであるが、それでいてなぜかすごく見応えがある。撮り方に凝ってるわけでもなく、大胆な表現があるわけでもないのに、なぜ見応えがあるのか素人にはわからない舛田マジック。たぶん細かいオリジナリティを各所に入れてるのが案外うまくいってるのと、キャスティングがいいからでしょうか。

そう、間違いなく言えるのは、キャラクターが豊かにふくらんでて、そこにピッタンコな役者が当てられています。どの人も「早くまた出てこないかな」と思わせる魅力があります。そう、コレ大事なんですよね。忠臣蔵は登場人物が多いのだから「こいつは見てたっておもしろくねえや」って俳優は入れるべきではないんです。どんなにカネをかけてもここはがんばらないとイケナイ。忠臣蔵ファンだから言ってるのではなく、そうしないと「持たない」でしょう、ハナシ長いし。どうも近年はそこんところがおろそかな気がいたします。

本作は全編、浪士たちを中心に構成されており、柳沢の陰謀とか上杉の間者とか、そういう理屈は一切出てこない。内匠頭さえそんなに重厚に扱われていない。そういう整理の仕方もうまいのかもしれない。

役所広司の安兵衛が印象的で、演技も役者持ち前のダイナミックさが申し分なく、彼がフレームインするとホッとする。主家断絶後は、彼ら急進派が自分たちだけで上野介を殺そうとはやり、小さな作戦を立てては失敗を重ねるのだが、このことで自然に敵が難攻不落なイメージに仕上がっていき、後半への期待を高める効果を生んでいる。

ほかにも川谷拓三の原惣右衛門が子だくさんでかかあ天下だったりとか、夏八木勲の不破数右衛門がなぜか病気で、討ち入りしながら吐血したり(八つ墓村でもそうだったがこの人血を吐くとき「あうっ」って声を出します)、安兵衛たちと別行動のアザー急進派「殿さまラブトリオ」の筆頭の片岡源五右衛門はマッチが役所広司と対照的なコントラストを出してたりと、いろんなキャラクターがさまざまな個性で登場し、オリジナルを壊さないようにキャラをおもしろくふくらませようとしてる。そんなスタッフのこころいきが存分に楽しめます。

マッチのほかに、内匠頭のヒガシ(は後年元禄繚乱でも同じ役をする)、主税のTOKIO松岡、光GENJI(てまだこのころやってたのかしら?)の内海=矢頭右衛門七とかジャニーズ陣がうまく当てられてて、これがなかなか奮闘している。(右衛門七はほとんど出番はないけど)

特筆すべきは、愛妻家・小野寺十内の井川比佐志とお丹・長山藍子のキスシーン。初老のラブシーンも珍しいがこのふたり、寅さんのさくらと浩なのである(テレビ版男はつらいよ)。ファンにはたまらないサービスシーンだ。照れくさかったりびっくりしたり。

肝心な松方の内蔵助だけ、妙にセリフ回しがオーバーアクションなような気もしたが、大江戸捜査網や金さんで「豹変するキャラクター」を得意としてる彼は、祇園で遊ぶ彼と討ち入りを覚悟する内蔵助の変身ぶりをいいかんじで演じており、お茶の間的には安心して見られる。ただ、彼は5年後にもテレ東で内蔵助をやってるが、区別がつくほど演じ分けられているだろうか。

あと、特徴的なところは、意外にみんな口が軽い。もっとも作戦を部外者に口外する忠臣蔵ではあるまいか?


平成21年現在、知る限りでは平成の忠臣蔵ではもっとも豪華だが、里見版より人気がないのは、なんというか、花をあしらったようなお茶の間向けの「優しさ」に欠けるからか?里見版ってペールトーンのイメージなんですが、こちらはビビッドなんですよね。大人向け?


WEB赤穂義士史料館、館長様に見せていただきました。