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中村仲蔵
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歌舞伎役者の若き中村仲蔵(初代)の逸話。
ただ、そのアイデアを芝居にかけてみると、思ってた客の反応とあまりにも違うので仲蔵は大失敗したと落ち込み、上方へ去ろうとするが…
実話とされているが、真相がある。「[[斧定九郎]]」の項目をご参照ください。
正蔵の仮名手本忠臣蔵・五段目の描写は、現在の実際の歌舞伎の五段目の内容とは大きく違い、聴いてるほうが戸惑うが、歌舞伎とは姉妹演劇である(原作である)文楽の仮名手本忠臣蔵・五段目を見ると合点がいく(ついでに言うと、仮名手本のことを描いた錦絵とも合致する)。おそらく文楽はオリジナルに近いカタチなのでしょうな。正蔵の落語は昭和40年の録音だが、おそらくその時点で歌舞伎の「手」は平成に見る仮名手本・五段目と変わらないはずだが、当然のことながら噺のバックグラウンドが江戸時代だから正蔵は古いほうの演出内容で噺している。
落語にもある、自分の工夫を失敗したと勘違いして江戸を後にしようとしたときに世間の評判を小耳に挟むくだりをカットしてダイレクトに師匠から褒められるとする先生もあるが、好みではない。
宝井琴調版(4th)では林家正蔵(8th)のバージョンのような会話が、まんま、ある。
神田松之丞バージョンが別格で、以下は松之丞版についてオハナシいたします。
さて内容は、通常版よりも"血の無い"仲蔵の苦労がひときわで、周囲のやっかみがすごい。
「楽屋雀め、見ていやがれ」という意地と根性と才能で「シン・定九郎」を考案に至らしめる仲蔵像は良い意味で重たく、「弁当幕」の客の静まり返ったリアクションも数日に及ぶ。コレいわゆる「客に蹴られた」と仲蔵が誤解し絶望感に浸る場面だが、水を打ったように静まり返る場の緊張感に赤ん坊が急に泣き出すシーンもなかなか圧巻。<small>(註釈01)</small>
仲蔵は落語ではカミさんと相談して上方へ旅にでようとするが、松之丞バージョンは首をくくろうとする(ちなみに独身。これらは仲蔵の生き様を強調するためのアレンジだそうだ)。
心理描写や状況描写を落語よりもずいぶんと引っ張るので、松之丞さんの芝居がかったパフォーマンスと相まって、静まり返った五段目の上演が何日か経った超満員の客席から、最初に大向うから声援が飛んだのを皮切りに場内が沸き返るような騒ぎになるシーンでは、張り詰めた弓が急に緩んだように、こちらの涙がドバーッと出る。
この話ではお手本となる浪人を目撃はしてもコンタクトをしないので、念願の此村大吉のエピソードに触れられるのか!?と思ったが、なんにもなかった。<small>(註釈01)(註釈02)</small>
いろんなシチュエーションが陰気臭いにもかかわらず、すごくドラマチックで傑作。