Revenge of the 47 Loyal Samurai

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2022年11月17日 (木) 12:44時点におけるKusuo (トーク | 投稿記録)による版

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作品概要
制作会社 ポートランド州立大
公開年度 2016年
内蔵助役 Colin Kane
評価 3ツ星


2019年にお亡くなりになった日本文学研究の第一人者(日本を愛し、帰化までされた)ドナルド・キーンさんの教え子で、ポートランド州立大教授のローレンス・コミンズさんが演出した、学生(スタッフ&キャスト総勢110人)が中心となって催された英語歌舞伎・仮名手本忠臣蔵(約2時間45分)。2016年の2月から3月まで8回の公演があったとか。(大人15ドル。シニア12ドル。学生8ドル)

これの録画がYouTubeに上がっていることをドナルド・キーン・センター柏崎のスタッフさんから教えていただいた。

前半>https://www.youtube.com/watch?v=_mdOmTtxwZ4

後半>https://www.youtube.com/watch?v=SxQ_f3dQvzc


大序〜三段目〜四段目〜五段目(&六段目)〜七段目〜十一段目…という構成で、それぞれ大幅に刈り込んでいる。(六段目はナレーションベースの人形劇を数分で処理。山崎街道で勘平が見つけた死体はダイレクトに与市兵衛と判り、おかやを前に謝罪しながら早々に切腹する。)

腹芸など、人と人とが推して知るようなハイコンテクストが肝となる忠臣蔵を、感情や言語でコミュニケーションを図るアメリカ人(それも学生)にどれほど再現できるか、だいぶ大目に見るつもりで鑑賞に入ったが、どうしてどうして見ごたえのあるものだった。

コミンズ教授の「絶対にアメリカ人を魅了するはず!」という目算どおり、この構成で見ていると、笑いと涙とラブストーリーも織り交ぜた復讐劇はわかりやすく、会場も、かわいそうなシーンに「マジか…」「やめて〜」(英語)というオーディエンスのつぶやきが録画で拾われているし、チャンバラへの喝采や師直が炭小屋から引っ張り出された際のブーイングなど、なかなか盛り上がっているのである。


準備期間は7週間だったとかで(コミンズ教授のパートナー・田中寿美さんのブログより)、よくもまぁ遠い海の向こうの若い学生が、ダイジェスト版とはいえ3時間近い歌舞伎を習得したものだと、ただただ関心。とにかくものすごく努力している。

もちろん、細かいことをいえば「ああ、ここもうちょっと貯めれば泣けるのに(もしくは笑えるのに)」という瞬間はいくらもある。しかし彼らの努力の前にそれは贅沢というものだ。

なにしろなんにも無いゼロから「全部」を自分たちで用意したんだから、暴挙の上の快挙には喝采しかない。


かなり忠実に英語訳された台本は、セリフだけでなく長唄や義太夫もカバーしており、コミンズ教授が英語で義太夫を語っている。(キーン先生のご養子になられた文楽の義太夫語り・鶴澤浅造先生が師匠)

ちなみにフナがヒキガエルになったり、アメリカ版に翻案されている部分はある。

七段目、お軽がはしごを降りる際の由良之助のセクハラ発言「舟霊様が見える」などは「こんなハシゴに乗っかったことないわ」「ほかのなんかに乗っかったりはしてるくせにぃ」(英語)とかになってたりする。(「見立て」はじゃんけんゲームになってるが、英語版のモノボケは見たかったがなあ。)


さて、公演開催当時にNHKや新聞の報道写真を見たときから心配だったと言うか、違和感を感じていたのがカツラやメイクである。

今回のように公演内容を見て関心をしてなければ、写真を見ただけではアチャラカ即興劇を連想し、東洋をバカにしてるのかとさえ疑ってしまうヘンチクリンぶりなのだ。

だが、これについても先述の田中氏のブログに逸話があった。

まず、衣裳はハワイ大学(は、’79に仮名手本をすでにやっており、ニューヨークに巡業に行ってたりしている。ていうかコミンズ教授はそれを見て触発されている)から借りたり、田中氏の采配によって自分たちで繕ったりしたという。

で、カツラはコミンズ教授の担当でドンキで売ってるようなものの改造らしく、学生たちが見様見真似でがんばった。しかし、その出来の悪さに衣裳を担当されていた田中さんはダメ出しをし、コミンズ教授とはぶつかったらしい。そうして時間の無い中、作り直しは困難を極めたようだ。

コミンズ先生はビジュアル面にはあんまりこだわりが無いように見受けられるが、もともと狂言を教えてる人だったことが美術小道具に関して頓着を無くさせているのだろうか??志村けんのバカ殿のようなヅラを用意して「学生の演ることなんだから」と低い妥協点で押し通そうとしたというのだから残念であります。総合芸術だと思うんだけどなぁ。


そんな田中氏の努力もあってか、カツラはそれでもまだ百歩譲れるのだが、メイクはどうしてああなっちゃったんだろう?

同じく田中氏のブログでは、相当厳しく(学生が泣くくらい)メイクについて叱咤したというのだが、見ている方からすると「指導失敗」としか言いようがない。だれもかれもが、かつてダウンタウンが坂本龍一とふざけた「ゲイシャガール」を想起させる。白塗りに、ヘンな位置の眉毛…。

「素晴らしく化粧が上手」とブログで褒めているお軽役の学生さんの眉毛でさえも、本物の眉毛のはるか上方に引かれ、あたしには道化にしか見えない。

これが「素晴らしく上手」ということは、想定している完成度が我々の想像とは別次元にあるか、もしくは他の学生のメイク術が壊滅的で、これでも「マシ」ということなのか…。(ちょっと辛辣な言い方ですいません。「これさえまともなら…」とくやしくて)

モヤモヤしながら「は!」と思い立って、「蝶々夫人」の舞台のYouTubeを検索してみた。(大学とは無縁のプロのやつ)

やんぬるかな。東洋人をイメージしたメイクというものは、一部例外はあるものの、おしなべてゲイシャガールな「おでこ眉」なのである。つまり私がオーソドックスについて不勉強であった。

たぶん、彫の深い西洋人の眉と目は近すぎる場合があるので、のっぺりした顔立ちを演出しようとすると、おでこに眉毛を描かないと「そう見えない」という、ある種の定番テクなのかも。(これは舞台関係者さんに機会があったら確認してみたい)

東洋人に見せる、と言うより西洋人に見えなくするための「おでこ眉」なのか。。。日本のコント師が白人を演じるときに付け鼻をするようなものだと思うが(<この表現は2014年頃に人種差別として問題になった)、おそらく今後「おでこ眉」は、ルッキズムに引っかかる気がする。


ともあれ、8日間の観客総動員数、3000人余りだという。

動画のスタンディングオベーションを見ながら、あたしも手を叩いた。大快挙でございます。


P.S.

上記URLから内容を見た人へ、七段目で唐突に日本人っぽい子供の「奉公人ハナチャン」が出てくるが、彼女はコミンズ教授の教え子さんで今日舞指導で参加したお師匠さんのお嬢さんだそうである。