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新作落語いろいろ

14,876 バイト追加, 2023年12月28日 (木) 13:03
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噺家の師匠たちは忠臣蔵を題材にいろいろなお話しを作ってらっしゃいます。
(古典はこちら>[http://www.kusuya.net/%E3%81%8F%E3%81%99%E3%81%8A%E3%81%AE%E5%BF%A0%E8%87%A3%E8%94%B5%E4%BD%9C%E5%93%81%E8%A9%95#.E9.96.A2.E9.80.A3.E4.BD.9C.E5.93.81 「忠臣蔵 関連作品」])
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'''難題話'''…桂文治6th
三題噺ならぬ、難題話というものを紹介した、明治33年の作品。榎本滋民先生(前にTBSの落語特選会の解説やってた)によれば文治の新作だろうというお話。三題噺ならぬ、難題話というものを紹介した、明治33年の作品。榎本滋民先生(前にTBSの落語特選会の解説やってらした)によれば文治の新作だろうというお話。
お題は「大星由良之助 流沙河の船軍(ふないくさ)」「在原業平 西王母に百夜通い」「中村芝翫の漢土(かち…中国)で芝居」
四十七士がユニットとして別のロケーションで悪漢と闘うシチュエーションがワクワクする。
 
 
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'''柳昇式忠臣蔵'''…春風亭柳昇5th
 
大きなことを言うようだが、当時、春風亭柳昇といえば我が国ではこの人ひとりであった。
 
その柳昇が忠臣蔵の刃傷から評定〜討ち入りを、各シーンに細かいギャグを散りばめて滑稽に綴った作品。
 
師匠の説では、泉岳寺の引き揚げではあまりに沿道に大勢の人が出て、地球が本所のほうへ傾いたという。
 
エールを贈る沿道の人々が甘いモノばかり恵むので、四十七士は全員虫歯になった。「総入れ歯になったそうすね。それであの連中を「義歯(義士)」というんスが」
 
長嶋監督や立川談志、三波春夫などのオピニオンを反映して、時の将軍・綱吉は浅野家再興を許し、四十七士の切腹も赦す。
 
細かいデータはところどころすごく怪しいのに師匠のとぼけたお人柄、芸風からまったく気にならない。噺の内容がどうのこうのより、師匠がお話しているのをのんびりとした気分で時間をご一緒するのが楽しい。
 
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余談だが枕で「[[忠臣蔵ー花に散り雪に散りー|宝塚]]は浅野内匠頭、辞世の句を歌いながら踊りまんねんで。介錯人も一緒に踊りまんねん」と話してる部分があるが、ほんとうはお仕置き場に向かう内匠頭が銀橋の途中で立ち止まって辞世を口ずさみ、BGMに辞世に曲のついた歌が流れ、切腹のシーンは無く、もちろん介錯人と踊るシーンは無い。お笑いってこういうふうにいろいろ盛って作るのだなあと興味深かった。
 
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'''忠臣ぐらっ'''…立川志の輔
各エンターテインメントに忠臣蔵はあるのに、実は落語だけ無い。というコンセプトから作ったお話し。たしかに、落語の忠臣蔵ものは艶笑小咄の天川屋義平を除いては、芝居の[[通し狂言 仮名手本忠臣蔵|仮名手本忠臣蔵]]を扱ったものばかりで、芝居好きの誰それがどうしたというハナシばかりである。を扱ったものばかりで、芝居好きの誰それがどうしたというハナシばかりである。(附言:忠臣義士たちの落語、無いわけではないが、ややこしくなるので、それにつきましてはこのサイトの[http://www.kusuya.net/%E3%81%8F%E3%81%99%E3%81%8A%E3%81%AE%E5%BF%A0%E8%87%A3%E8%94%B5%E4%BD%9C%E5%93%81%E8%A9%95#.E9.96.A2.E9.80.A3.E4.BD.9C.E5.93.81 「古典落語」の項目]をご参照ください。)
志の輔師匠が題材にしたのは[[岡野金右衛門]]の絵図面取り。
ただ、なんとなく台詞が安く、まるでその場で思いついて喋ってるかのような完成度だったのが残念。でもアイデアは面白かった。
 
(附言:志の輔師匠で忠臣蔵といえば、「[[中村仲蔵]]」が有名。<左記リンク「古典落語」の項目を御覧ください。)
 
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30分強の噺だがあっという間。コレ、1時間ぐらいのロングバージョンで聴けないかなあ。
 
 
'''[[梶川与惣兵衛]]'''
 
講談『梶川の屏風回し(「掛け軸回し」)』のアレンジ。そもそもオリジナルがコミカルなのでブラック師匠が落語にするとほんとに笑える。
 
松の廊下で[[浅野内匠頭]]を取り押さえた褒美をもらってイイ気になっていた梶川は老中方からおおいに嫌われ「お江戸日本橋亭や上野広小路亭が快楽亭ブラックにしたように"出禁"じゃ!」よわった梶川が松の廊下で一緒に浅野を取り押さえたが褒美を拒否して評判のいい[[関久阿]]にアドバイスを求めると「謝罪会見を開いて、事の次第を"お話しくだされ梶川殿"。」
 
…というオチ。
 
ネタバレ御免だが、師匠が名古屋公演でかけたときに客がポカンとしてたから。ということで、師匠も冒頭にオチを晒す。笑(ちなみにこのネタは2023年、休館前のお江戸日本橋亭で披露された。)
 
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でも師匠、忠臣蔵を見てて感じてた「歌舞伎でがんじがらめになったストレス」を解消する意味でこのお噺をお作りになったとおっしゃってましたが、出てくるディティールは東映映画で、歌舞伎と言うよりは「講談」のそれに近い。
 
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喬太郎師匠がどっかで読みかじったなにかの一節から「男色」ネタを思いついたそうで、大好きな12chの「[[つか版・忠臣蔵]]」の風間杜夫のモノマネで内匠頭を演じている、サービス満点の作品。
 
 
<附言>浪曲の玉川奈々福師匠が本作を原作とした「 BL浪曲「シン・忠臣蔵」」という作品をかけていらっしゃる。
 
ウルトラマン生誕50周年「ウルトラ喬タロウ」での新作落語では、ウルトラ怪獣のアダ名で呼び合ってた小学生時代の同窓会のハナシで、目立たなかったサイゴくんがいま芝居をやっており先日も浅野内匠頭を演ったというエピソードが出てくる。「なにせ敵がキーラだから」…という、もう、どの客を見込んでのギャグなのやら(笑)、師匠はまっすぐにあさっての方向へ高座を駆け抜けた。ウルトラマン生誕50周年「ウルトラ喬タロウ」での新作落語(師匠は新旧ウルトラマンのガチヲタ)では、ウルトラ怪獣のアダ名で呼び合ってた小学生時代の同窓会のハナシで、目立たなかったサイゴくんがいま芝居をやっており先日も浅野内匠頭を演ったというエピソードが出てくる。「なにせ敵がキーラだから」…という、もう、どの客を見込んでのギャグなのやら(笑)、キョンキョンはまっすぐにあさっての方向へ高座を駆け抜けた。  「ウルトラ仲蔵」は、「中村仲蔵」のスト−リーラインを見事に初代マンの世界観になぞらえてアレンジしたパロディ。活躍が認められて地球のバルタン星人討伐に派遣されたウルトラ仲蔵が工夫して相手を倒すが、その見事さに感動して言葉も出ない科特隊。「ああ、これはしくじったな」と上方へゴモラ退治に出かけようとするが…。たまんない内容ですな!笑
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となりのご婦人とお話をしたが、息子さんが舞台上でユーフォニュームを演ってるそうで、おおいにご満悦のご様子でした。
 
 
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'''チュウ臣蔵'''…桂 枝太郎3rd
 
ネズミやゴキブリ、ナメクジなど、アパートに巣食う害獣、害虫に転生した浅野内匠頭と四十七士と、一人暮らしの女性のおはなし。
 
 
(以下ネタバレ)
 
「低血圧で朝のタクミなんかきらいよ!いつも割り勘で、自腹切ったらどうなの!」と、前カレのタクミくんと別れた女性の肩と額には傷がある、吉良上野介の生まれ変わりであった。
 
それを見た、ネズミやゴキブリたちは…
 
この噺は台詞の中に「セッ●ス」ということばがあったせいで(?)師匠は新宿末広亭を出禁になったことがあったそうだ。
 
もともと忠臣蔵にぞっこんだったのか、どうなのか。忠臣蔵はネタ的にいじりやすいということから、ウィキペディアとか見ながら構成したと師匠は教えてくれた。
 
ここにはラインナップしないでくれと言われたが、書いちゃった。面白いネタなんですから、よろしいじゃございませんか。
 
 
愉快なドタバタで、初出は存じ上げないが、2019年に大久保ノブオさん、森一弥さん、我善導さん(三人で、ワハハバーガー)によって、忠実にコント化された。
 
 
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'''仮名手本天神祭'''…笑福亭生寿
 
2020年夏、コロナ禍で催しの大半が中止になってしまった、日本三大祭の一つ、大阪天神祭。
 
ならば、祭りにまつわる落語で笑って、疫病を吹き飛ばそうとオンライン落語が企画され、そこで披露された作品。
 
元禄15年6月に天神祭でにぎわう大阪なにわ橋の上で、おしのびで見物に来た吉良上野介と、大石内蔵助が(お互い誰とは気づかず)バッタリと出会い、意気投合。再会を約束する。
 
赤穂事件にまつわる細かなディティールには突っ込みどころがすごく多いものの(ギャグを成立させるために、わざとデタラメにしているムキもある)、天神祭も良いバランスでフィーチャーされているし、橋の上での出会いもコミカルな中に、なかなかドラマチックな構成で好き。
 
 
(ネタバレ)
 
ダジャレやギャグが全体に良い感じにちりばめられて、たいそう楽しい構成だが、前半のジャブが効いてるだけに、サゲのパンチが弱くてちょっと拍子抜けした(敢えて言わせていただくと、橘家文蔵(3rd)師匠の「電柱でござる」なみである。)。でも、あとから考えると、さして面白くもないやりとりを「んなアホな」でごまかす上方的なやりかたではなく、落とし噺に徹した笑いづくりが小気味いい。
 
 
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[[画像:sakana.jpg|thumb|完結編チラシ。]]
 
'''サカナ手本忠臣蔵'''…玉川太福(浪曲)
 
海を舞台に、魚介類がくりひろげる、新作浪曲の忠臣蔵(の、松之廊下〜田村邸)。「勉強会」の名のもとにその会ごとにネタ卸をし、その場で観客の意見を求めて次に繋げるという奇特な企画。
 
 
(以下ネタバレ)
 
[[浅野内匠頭|アサリ内匠頭]]と[[吉良上野介|ボラ上野介]]がサンゴの廊下でいざこざになる場面から始まり、[[田村右京大夫|サワラ右京太夫]]邸で切腹(すると、貝柱が切れてむき身になる)するまでが描かれた、純粋に面白い浪曲劇。
 
「食(しょく)さそう 醤油の香り 我はバター 半分残し 酒蒸しにせん…」辞世のレシピ
 
鬼のようにどうでもいい日常的な題材でも、ものすごく聴き心地の良い唸りで作品にしてしまう太福師匠だから、見てるこっちは終始笑っていられる作品だが、コレの内容自体は、ダジャレでもじられた登場人物に、その生物の豆知識が散りばめられた、「面白いだけ」の作品。
 
つまり、喬太郎師匠の落語のように、オカマの男色関係が、忠義忠孝のひねりになっているだとか、ブラック師匠のように、怪獣の個性が見事に忠臣蔵の登場人物に見立てられているといった、「なぜその題材で演ったか」というこだわりや奥行きは、この「サカナ手本」には無い。
 
そんなふうに言っちゃうと、ちょっとイジワルだが、ダジャレやギャグに徹してる点では、これはこれで個性であります。(ほかにも、[[梶川与惣兵衛|カニ川与惣兵衛]]「海中でござる!」。[[片岡源五右衛門|カツオか源五右衛門]]。[[大石内蔵助|大イカ内蔵助]]…笑)
 
作者(たぶん松田健次氏)が「2019年に登場人物が魚類になる雑想がふと転がってきた」ということで本を書き、企画を持ちかけられた太福師匠が節(ふし)にしたりギャグを足して作ったという。<small>(註01)</small>
 
 
「その2」赤穂城明け渡しから、オオイカ(大石)一家の山科閑居までが口演。 「その3」アナゴ屋利兵衛の用意してくれた道具を江戸に運ぶ、オオイカ東下り。宿場で、カキ見五郎兵衛とでっくわす。「その4」赤エイ源蔵 徳利の別れ。「その5」岡野キンキ右衛門 絵図面取り。大工の娘お鮎のやりとりはKinkiとayuの歌合戦。
 
 
前年3月に始まった本作は、2022年11月めでたく完結。「その6 大団円 魚士討ち入り」。水産した四十七ギョ士はタツノオトシゴの梯子を登ってボラ邸に突入![[大石内蔵助|オオイカ内蔵助]]の篝火(かがりびっておっしゃってた気がするけど(集魚灯)、イカだし漁火(いさりび)って言いたかったのでは…。当日風邪っぴきで、その上忙しく練習不足を告白していらっしゃった)に誘われ、要人付人はみな一網打尽。[[片岡源五右衛門|カツオカ源五右衛門]]も一本釣りで活躍。[[清水一学|サメズ一学]]には手こずったが、[[堀部弥兵衛|ブリべ弥兵衛]]、[[堀部安兵衛|安兵衛]]親子が水泉に落ちた一学を平賀源内の発明したエレキテルで退治。一緒に水に入っていた安兵衛は「12月のブリはアブラが乗っていて」通電しなかった。最後にはみごと[[吉良上野介|ボラ上野]]のおかしらを太刀落とし、エイエイウオー!と、あいなる。
 
 
註01…2021.3.13 江戸東京博物館小ホールでのネタおろしに配られた口上書と、トークより。
 
 
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'''元禄女太陽伝'''…春風亭小朝
 
 脚本家の金子成人原作。
 
 みずから吉原に飛び込んで女郎となったお熊というめずらしい女性(名が体を表す眉毛が繋がったお顔立ち)が、たまたま客で来た[[大石主税]](「男にしてやろう」と意気込む[[堀部安兵衛|安兵衛]]と[[不破数右衛門|数右衛門]]に連れられてやってきた)。彼の筆おろしをしてあげる。
 
 討ち入りのあと、お熊は江戸中で大石主税を男にした女郎としてバズり、吉原いちばんの売れっ子になるというハナシ。
 
 「お前は運が良い女だな。まるで鬼の首を取ったみたいだ」「いいえ、取ったのは吉良の首」というサゲもあると、某サイトにあった。
 
 同じ原作(脚本)&タイトルで萩本欽一さんが道楽で作った(としか言いようのない笑)短編オムニバス映画「欽ちゃんのシネマジャック(1993)」で映像化されているらしいが、成績は不調だったという本作はソフト化もされておらず、2023年現在確認ができない。
 
 
'''殿中でござる'''
 
 初代国立劇場さよなら公演「歌舞伎&落語 コラボ忠臣蔵」
 
 ということで、小朝師匠の落語「[[中村仲蔵]]」と中村芝翫(8th)丈の[[通し狂言 仮名手本忠臣蔵|5〜6段目]]が合体した公演。2022年秋。
 
 この[[赤穂義士外伝の内​ 荒川十太夫|2ヶ月ほど前に歌舞伎座で、講談と歌舞伎のコラボ]]があって、そのときは神田松鯉&神田伯山&尾上松緑の鼎談があったんで、今回もそういうような趣向なのかと思ったら、幕間を挟んで前半落語と後半で歌舞伎が完全に分離してて、トークも無く、もしや企画が先走って、演者さんたちはおたがいを執着してないのかな?と、邪推してしまう印象の舞台だった。
 
 落語も歌舞伎も、もともと知ってる古典の演目なんで出かける予定がなかったが、開口一番で小朝師匠の「殿中でござる」というのがあるというんで、新作なら聴かねば!とお出かけ。
 
 
 最近映画やテレビで忠臣蔵をやらなくなったのは「昔なら大衆は『赤穂四十七士』の忠義に心を打たれていたものを、最近は『討ち入りはテロでは?』となってきた。テロという認識が多数派だと容認できないから、メディアも忠臣蔵を扱えなくなってきてるんじゃないか」という師匠の説のもとに「ほんとに吉良が悪いと思います?」という論調で、浅野内匠頭を悪く言う(ケチでイラチ)視点で赤穂事件のあらましを討ち入りまでおさらいをするだけの内容だった。
 
 とはいえ、台詞が出来てて「さすが」と思ったものだが、実はこれも菊池寛の「吉良上野介の立場」という短編を落語調(原作に時事ネタなどを挟み込むなどしてアレンジしている)にしたネタだとあとから知って、じゃあ「さもあろう」だった。
 
 テロの話で口火を切った割には、討ち入りのテロ性には触れないんでヘンだなと思ったが、要は師匠は「昔とはちょっと変わったところで、忠臣蔵を見てみよう」的な視点で観客のご機嫌を伺うアプローチを計ったようである。
 
 師匠が下がって「え…五段目関係ないじゃん」とか「え…なんでタイトルが"殿中でござる"なの…」とポカンとしていると唐突に太神楽が始まって(曲芸のスキルはすごいのだが、ひとつも忠臣蔵とは関係ない)、それが終わると引き続き師匠が戻ってきて落語「中村仲蔵」が始まる。
 
 35分の幕間のあと、五段目フィーチャーしてるライブな割に、芝翫さんは勘平…(中村歌六が貫禄のある定九郎)。で、六段目がたっぷり。
 
 
たまたま(なのか連動しているのか)NHKの「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段」の再放送があったので、それを見た友人は今回のライブを楽しんだようだった。