水沼久太夫

このしろ

水沼久太夫【みずぬま きゅうだゆう】…講談キャラ。元・久留米の有馬藩。神田紺屋町に住まう。

大高源五が堀内道場で知り合った兄弟弟子で、気が合って義兄弟の縁を結ぶ。


大高源五 腹切り魚の別れ

主家退転後、中村勘助と大高源五が東海道を下向中、大高が勢州津(三重県の津市)の義兄・水沼久太夫に会いたいので寄り道をリクエスト。

勘助が事情を聞くと、江戸で仲良しだった義兄・水沼久太夫が病気になったとき大高は赤穂に転勤になるが、その時ヤクレイ(薬代)を置いていってやったという。久太夫はソレを元に回復し、再就職して出世して津にいるという。現在はメールのやりとりしかしてないとか。

中「やめませんか寄り道。太夫がおっしゃってたではござらぬか"バカに会うのはいいけど、ちゃんとした人に会うと、思い内にあれば色外に現るる、のたとえでヤバイ"って。」

大「玄関先で、ほんのちょっとだけ!ネ!」

中村の心配をよそに寄ってみると、九太夫は大喜びで二人を家に上げ、ご飯の用意をしちゃう。

久「ウンウン、どうしてた、その後。大変だったね。」

大「やあ、あたしらはその…二人とも就職決まったんでハイ。ホッとしてますわ」

久「ああそうハイハイ(笑)。ああこのサカナね、コノシロ。味はいまいちだけど、ま、俗に言う"腹切り魚"。おのおのがたの大望成就を願って、お祝いを申した心得じゃ。ご賞味くださるまいか」※註01

大「(冷汗)や、ですから、再就職しましたんで。なんスか?大望成就って」

久「マジでか!?…ああそうかい!もういいっ。じゃーあ食べないでいい!」(庭へお膳をガシャーン)「見下げ果てた連中だなおまいら!再就職だ!?犬や猫だって飼われた恩を忘れないというのに!兄弟の縁は切るからな!」ブチ切れて退室。

ふたりはスゴスゴ出て行く。

大「中村、すまなかったなあ。ねえ、中村よ」

中「だから、やめようっていったのに、ああ不愉快だなあ。

 だいたいあの人はうちらと席を同じゅうする御仁じゃないよ。立派な…まてよ、こりゃあコトによると、うちらを未だ疑うかもしれないから、とどめを刺しておこう。大高、彼が貧乏してたとき薬代貸したって言ったな。ソレ返してもらってこい!」

屋敷に戻った大高源五。利息を付けてお金をぶんどってくる。久太夫さらにご立腹。


その年12月14日に発したる書状が久太夫に届く。中には大高源五の詫び状、請求したお金、義党47人の連名が入っていた。

久「やっぱりな…。かくばかりに彼に心配苦労をいたせしこそ、誠に気の毒のいたり…」

水沼家では詫び状をいつまでも大切にしました。


東京漫画出版社の忠臣蔵文庫では(8)「中村勘助」にこのエピソードが入っている。


※註01…コノシロ(図)は、コハダの成長したやつで、「脂が乗って美味しいからな。お刺身したり骨切りして焼いたりして」と、赤穂のお魚屋さんにきたお客さんが言ってました。(NHK「新日本風土記」2019.12)  東家一太郎師匠の浪曲版を聴くと「おいしい」サカナと紹介されており、講談本にある「ハラキリウオ」ではなく「フクセツギョ」と言っている。(ちなみに上述の忠臣蔵文庫でも浪曲と同じ呼称)