オペラ忠臣蔵

提供: Kusupedia
移動先: 案内検索
作品概要
制作会社 舞台
公開年度 1997年
内蔵助役 直野資(baritone)
評価 4ツ星

三枝成彰(さえぐさしげあき)作曲のオペラ。

そもそもあたしはオペラに関してまったく暗いんですが、本作品の印象はひじょうにイイです。

最初CDで聴いて「う〜〜〜きさまは〜おつかれの〜ごよぉす〜〜」なんて、高級なパロディにも聴こえて楽しかったが、ビデオでビジュアルを見ると「オペラでやるならこうだろう」という、ひじょうにストイックな舞台美術(基本的に奧がせり上がっている、小道具などがなんにもない坂のような舞台があるだけ。そこに幕ごとにカーテンや支柱が現れる)から心意気がつたわってきてかなりお洒落。


おはなしは、すでに討ち入りを終えて松平家でお預けになってる主税(メゾ・ソプラノ坂本 朱)や岡野金右衛門(テノール〜違いのわかる男〜錦織 健)の会話で始まり、白装束の彼らは死を目の前にして、出すものを出した堀部安兵衛(バリトン福島明也)も交え、事件に関してのそれぞれの思いと「男と女」について三重唱で語り合う。そんなオープニング。

死を目の前にした金右衛門の回想から、おはなしは事件の発端までさかのぼる。岡野金右衛門で始まると言う事はすなわち、この作品がメロドラマに焦点が当てられてる事を象徴している。第二幕になると遊郭で遊女と心中する橋本平左衛門(テノール小林一夫)も登場する。


全三幕の構成。


ほぼぬかりない内容に、よっぽど忠臣蔵をよく知ってるおじいさんが台本を書いてるのかと思ったら、あたしと4つしか年の変わらない、当時36歳の作家・島田雅彦氏の仕事だった。現・芥川賞選考委員。

氏はライナーノートの中で、資料を調べて要素を紡ぐのは小説家なら誰でもやってるからどうって事はないが、舞台で歌うに適した音節を連ねることが困難だったと言っている。誠に興味深い。

いわゆる「作詞」が難儀だというわけだがどうしてどうして苦心の甲斐あってか、たとえば金右衛門の本心が計り知れないお艶がアリアで「あたしは笑いそこねた顔のまま ため息をついて待っている」という歌謡曲のようなフレーズがあるかと思うと、「あたしはあんたの影にも惚れた〜あんたのかたわれは彼岸を見ている」というツボな忠臣蔵な詞まで、超いいかんじなのであります。

特に第三幕。平左衛門「俺はあの世でお前を夢に見る。お前はこの世で俺の夢を見てくれ」と別れを告げようとすると、遊女・綾衣は「この世で見る夢はもうたくさん あんたとあの世で夢を見たい あんたとあの世で夢を見たい」ってこれね、泣けますよ。ソプラノ佐藤しのぶさんの歌声がまた最高。しまいに「私を殺して」ですもの(涙)。


討ち入り。

装束は雁木模様の羽織以外はまちまちで、さらに羽織の着こなしもまちまちなので実にカラフルな統一感の無さでコーデされており、独特なこだわりをかんじる。内蔵助の火事兜についてるシコロが真っ赤で、こういうカラーリングは豊国の浮世絵でしかお目にかかったことがない。

陣太鼓をイメージしたようなティンパニーの連打には迫力があり、演出や照明による舞台効果にも緊迫感がいきわたっている。


西洋の音楽文化で、忠臣蔵の死生観&ラブストーリーを料理するという、まさに画期的な作品であります。

オペラ素人が聴いてても、現場々々の緊張感や心理状態の起伏が音楽で表現されてて相当楽しめます。

もともとオペラが好きでいっぱい見てる人のサイトレビューには辛いのもあったり「日本のオペラもここまで来たか」と賞賛の声もあったりとさまざま。


ちなみにこのビデオ版、単に舞台の録画でじゅうぶんオッケーなのに、編集中に手持ち無沙汰だったのか時々エフェクトでビデオ映像に浮世絵(主に春画で、元禄時代に特定していない)が入ってきたりヘンなストップモーションをしたりと、画面がかなりウザくて集中力に悪影響。字幕があったり無かったりもする。


大石内蔵助の火事兜の紋はあってるが、羽織のが左右逆になってる。こりゃご愛敬。


三枝成彰さんにお会いしたときビデオもCDも持ってると言ったら恐縮してくださいました。やはり深夜におよぶ根をつめた仕事中の気分転換にはポルノだそうです(が、昔と違ってセクハラ問題があるため、現在はいろいろ遠慮がちだそうですw。親近感…)。