三段目
紙屑屋
道楽が過ぎて勘当された若旦那が知り合いのすすめで紙屑屋を手伝うが、クズから拾う個人情報に気を取られ、挙句踊り出したりするばかばかしいお噺。
明治時代の土橋亭里う馬の落語の本には、若旦那が紙くずの中から鸚鵡石(歌舞伎狂言の名せりふを集めた小冊子)を見つけて三段目をひとりでドタバタ演じてるところへ、若旦那の気が変になったと心配した外科が止めに入る。
「俺を抱きとめたのは本蔵かっ」「なあに外科でございます」
と言うサゲ。枕で「只今の内科を本道と申しました時分のお話でございます」と断っているが、つまり本道と本蔵をかけたダジャレ。
CD「落語仮名手本忠臣蔵」に「紙屑屋」はそうした名残で収録されてはいるが、サゲは「あんたはよほど人間のクズだなあ」「へい。より分けております」という現代のオーソドックスなものである。
ライナーノートには三遊亭圓朝(1st)のバージョン(噺をうつした「圓朝全集」)を引用している。上記と同じシチュエーションだが、そこでは「我をとどめしはホンゾウか」というと「いいや外療(げりょう)だ。」…と、サゲたとある。
本草学(【ほんぞうがく】…中国で発達した医薬に関する薬草学(=内科)と、外科の古い言い方。(註01)
いずれにせよ武藤禎夫氏の著書にも「明治時代でこのサゲはすでにわかりにくくなっている」とあるが、元々はれっきとした忠臣蔵ネタ。
さてCD「落語仮名手本忠臣蔵」の上方の桂小文治(2nd)バージョンには、とちゅうで若旦那が紙クズをより分けながら「すけさん こまもの うらんすか♪」と陽気に歌っているシーンが有り、コレは「大阪尻取り唄」の一部で、調べてみるともうちょっと前から歌ってくれれば、「ちうぎのさむらい ゆらのすけ すけさん こまものうらんすか」と、かろうじて忠臣蔵にかかるのだったんだがなあ。
註01…忠臣蔵とは関係が無いが、現代の私たちが「本草学」ゆかりのモノに触れられると言えば「千と千尋の神隠し」。湯婆婆が愛でる従業員はカエルやナメクジなどだが、あれは本草学上、「虫」に分類されてる連中(人間、獣、鳥、魚以外は「虫」と分類される)だと岡田斗司夫氏は動画の中で言っている。それで思い出したのが三遊亭圓生の「蛙茶番」。「カエルなんて、アレ虫じゃありませんか」と言う部分があるが、師匠が生きた時代には本草学の分類が生きていたのだろう。
質屋芝居
とある質屋に、お葬式に必要だと客が質草の裃を出しに札を持って来たので丁稚が蔵に取りに行くと、隣家の稽古場から三味線の音が聴こえてくる。
芝居好きの丁稚はその囃子が「忠臣蔵の三段目」とわかると、ひとりで喧嘩場のシーンを再現しだす。
新たな客の注文の布団を出しに行きがてら番頭が丁稚の様子を見に行くが、彼も芝居ごっこに引き込まれる。
裃も布団も出てこないので最終的に店の主人が見に行くと、やはり毒されて蔵の前に座り込み木戸番を始める。
店先で途方に暮れていた客二人が見に行くと
主人「無銭はならんわい!」
客「いえ、札が二枚渡してございます。」
「質札」と、芝居小屋の入場に必要だった「札」がかけてございますんですな。
初めて聴いたときこの噺はなかなかすぐに飲み込めなかった。
というのも、古い録音のせいもあってか桂小文治(2nd)の早口の関西弁が聞き取りにくかった上(笑福亭松鶴(7th)だとクリア)に、登場人物の異常行動wに共感ができず状況が飲み込めなかったのであります。慣れてる「四段目」のセオリーで言うと旦那まで芝居ごっこに参加して、さらにそれが木戸番というのは…w
そもそも後半に出てくる「裏門合点」がマイナーすぎて気が引けていたのもあった。
とはいえ鳴り物が賑やかな楽しい話でございます。
その他
「小夜衣」
「よいよい蕎麦」
「竜宮」