舟木一夫特別公演 芸能生活55周年ファイナル 忠臣蔵

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作品概要
制作会社 松竹
公開年度 2017年
内蔵助役 舟木一夫
評価 2ツ星
進呈のクリアファイル。
記念クッキー

舟木一夫特別公演 芸能生活55周年ファイナル 忠臣蔵花の巻/雪の巻

ファイナルというから「?」と思ったら、芸能生活55周年にちなんで年の始めから55箇所でコンサート(55日110ステージ)をやってきた「締めくくり」という意味だった。

この記念の出し物が「忠臣蔵」となり、12月14日(討ち入りの日)に新橋演舞場へ観に参りました。


昭和歌手のコンサートではおなじみの?テンプレで、前半が芝居で後半がリサイタルとなる二部構成。

芝居が2時間ほどで歌は小一時間。(全部がっつり見るとなると朝11〜19時半頃までかかる。内容は昼と同じと踏んであたしゃどうしても仕事の都合で夜の部のコンサートはごめんなさいした。)

昼にやる「花の巻」と夜にやる「雪の巻」は忠臣蔵の前半部と後半部で芝居の内容が異なり、全体はおよそ正調忠臣蔵。

赤穂での大石内匠頭~松の廊下事件~赤穂城の話し合い(評定ではない)と裏門~妻子の別れ~放蕩(ここまで花の巻)

「雪の巻」は立花左近~江戸・脱盟者~大工の棟梁とのやりとり(絵図面取りではない)~茶会の日取りゲット(以上の江戸シークエンスは同じ旅籠で繰り広げられる)~南部坂~討ち入り~お預けと切腹。


花道が見えない3階席に4500円も取るのかといささか不満も覚えたが、舞台の作りや衣裳を見るとしかたがないと思うほどのゆきとどいたクオリティであった。(ちなみに2階席3階席には花道を映し出してる定点カメラのモニターが設置されてはいるが、露出の調整が無く場内が暗いと人物がハレーションを起こして白い塊にしか見えない。しかし事前に「身を乗り出すな」の場内アナウンスがあるので見えないことを諦めるよりほかない。)

ツアーの量やゲストの豪華さ(里見浩太朗、林与一、紺野美沙子ら)も含めて、人気歌手・舟木一夫の健在ぶりを感じる。


内匠頭(尾上松也)は天真爛漫なワンパク坊主風に演出され、内蔵助(舟木一夫)はそれを愛おしく思い、上野介(林与一)は疎ましく思う。

「人が人を殺めても世の中は良くならない。こんなことは我らで仕舞にしたい」という、一見後ろ向きとも思われる内蔵助の発言にも象徴されるが、殿さまの性格付けも含めていささか現代的な解釈や設定が入っており、舟木一夫が1日中頑張ってるようすを楽しむファンはともかく忠臣蔵ファンのわたしにはスカッとしないあと味だった。

また今回は要所要所で内匠頭を馬鹿だと言ってるシーンが有り、新鮮なアプローチでもちろんフォローも入るのだがあんまり気分は良くなかった。

吉良が悪態をつくのはともかく内蔵助までもが「小太刀は突かなきゃ。バカじゃ阿呆じゃ。」「民百姓を不安にしてアホか」と言いたい放題。これは愛情の裏返しで悔やんでいるのだろうけれど、なにしろあらかじめ殿にはわんぱくな演出があるから「バカ」にリアリティが盛られ、舟木の演技では言葉の向こう側にある愛まではこちらに届かないのだ。


ご来場のご婦人方(目測:舟木一夫と同世代やそれ以上の年齢層)は忠臣蔵をよく知っているので脚本上のそうした細かいこだわりよりも大きな流れに身を任せており、要所要所でちゃんと感動してすすり泣いている。

1965年のNHK大河「赤穂浪士」で、舟木(矢頭右衛門七)は大抜擢だったそうだが、狙いは図にあたって、彼の出演シーンは視聴率が跳ね上がったという。更に今回共演している林与一もそのとき(やっぱり大抜擢)に堀田隼人で大人気で、メディアのインタビューが主役の長谷川一夫よりも林にばかりに行くものだから、長谷川が「これはお前さんが主役だね」と言ったいうエピソードもある(ともに週刊平凡S40.1.7号)。観客たちはそんなアイドル的なふたりをリアルタイムで見ていた世代だ。

「ああ南部坂だ」「敵の仲間がおるさかい」と鑑賞中にボソボソと声に出してしまうお茶目なお客さんもおり、討ち入りの時に吉良邸の池にかかった橋の上で見得を切る武士が現れると「清水一学」と何人かが言ったがすぐにその人物が「小林平八郎!」と名乗りをあげるので彼女たちのフライングがおもしろかった。


あと、殿さま夫婦が赤穂の浜辺でデートしてたり、堀部親子も赤穂勤務だったり、大石親子が同じ屋敷で切腹したりとわかりやすく都合よくアレンジしてるわりには、そこそこ歴史上のしっかりしたくわしいデータを台詞に盛り込んだりして、微妙な「こむずかしさ」を感じた(18年前17歳で饗応役やって8年前松山城の受け取りに行って…とか一場面も出てこない吉良左兵衛の行く末などがすべてセリフで処理されている)。

観客が喜んでいるのは遊里で働く禿(かむろ)の可愛らしさや、山科の女中の山出しの態度、堀部弥兵衛のおじいさんギャグなどだし、すすり泣きは山科の妻子の別れや南部坂、細川邸など明らかにベタでわかりやすいところに反応している。

客層は9割がた昭和女子だし、彼女たちはそもそも理屈っぽいハナシは好まないんじゃないかと思うから、もうちょっとシンプルに敷衍しても?と思った。

それとも「適度なわかりにくさ」を入れるのはバランスとして仕上がり感に貢献しているエッセンスなのか。


以上に加えて、決して周囲のキャラが舟木の存在感を越える事のないように配慮されるので四十七士の魅力アベレージは発揮されず、新解釈やアレンジの工夫はあらためてこの忠臣蔵でワクワクするしかけにはなってなかった。


後半のコンサートでは、14日はこの日だけ「特別」に彼がNHK大河ドラマ「赤穂浪士(NHK)」に出演した当時にリリースされた記念曲「右衛門七討ち入り」がアンコールの時に歌われた(貴重)。

舟木一夫のトークは相手におもねらないドライなボヤキ系なのだが、MCで「今日は12月14日討ち入りのあった日で。…だからどうしたってこともないんですけど。」と、ここで場内の笑いを誘うのはともかく「んまぁ、何百年経ったのか知りませんけど」的に続ける。

奇しくもコンサートのあった2017年は討ち入りから315年という節目にあり、これを舟木氏をはじめ周囲のスタッフの誰も知らなかった(もしくはひとりも重要と思わなかった)のは忠臣蔵ファンとしてはちょっと寂しかった。

おおきな舞台をやり遂げても「大したことないよ」的な照れ隠しなのかもだけれど。(舞台秘話にも触れなかったような…。恰好のトーク材料と見受けるがゲストへの配慮なのだろうか。)


ともあれ舟木一夫の70オーバーを感じさせない体力には感服した。