阿呆浪士

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作品概要
制作会社 劇団ラッパ屋
公開年度 1994年
内蔵助役 宇納 佑
評価 3ツ星


 この年にリリースされた主な忠臣蔵モノは、TBSのテレビドラマを除いて「四十七人の刺客」「忠臣蔵外伝 四谷怪談」と、だいたい変化球系なのだが、そんな中で舞台版を代表して、当時じゃっかん35歳の劇団主宰・鈴木聡氏のこのしごとは(僭越ながら)一等賞をさし上げて良いのではないかという出来栄え。

 ストーリーをざっくり言えば、町民が討ち入りに参加してしまうコメディで、登場する赤穂浪士は黒兵衛貞四郎。内蔵助は討ち入りに後ろ向きだ。

 これはもう本来ならば忠臣蔵ファンのあたしからすればご法度(正規メンバーではない忠臣蔵)なのであり、あらすじを聴いただけなら決して見に行きたくないのだが(そもそもタイトルからバカにしたイメージを受ける)、フタを開けてみるとひじょうに良く出来たコメディで、「これもアリやな」と思いながら、笑って、泣ける。

 義理を捨てて正直に、自由に生きるより、ウソや建前で生きたほうがずっと楽。…早大出てると、30代でこんなこと、書けちゃうんだなあ。あたしが40過ぎて知ったことですわい。

 

1994年初演版

<以下ネタバレを含みます>

 元気なおバカ町人・魚屋の八(はち)が、ひょんなことで赤穂浪士の血判状を手に入れることになった。八がソレを利用して私欲のために赤穂浪士の名を語ったために、最終的に討ち入りにまで行くハメになる。

 特には新しくなさそうなこのアウトラインが、脱盟者の思惑も織り交ぜながら良い感じの構成で、うわべでは決して深淵的なことを標榜してないのに、バブル崩壊という時代背景で「生命をどう使うか」についてを効果的に投げかけてくる。


 あと、主人公・八を演じるおかやまはじめ氏(註01)が、いいかんじにピュアで無学なヌケサク(阿呆)を演じており、なんというか映画「拝啓天皇陛下様」的な、悲喜劇を生む。

 役人と町民とメディアという、いつの時代も相容れないような各畑が、実は赤穂事件でも大きな要素だともあたしは考えておりまして、本作はそうした裏テーマの根幹をじょうずに扱ってるから、ファン的にはご法度を破られてても、違和感が無く楽しめる。 

 また、大佛次郎さんとは違う視点でサバイバーズ・ギルトも描く。


 ここまで褒めておいて星が3ッツなのは、やはりこれは主役が赤穂浪士ではなく、阿呆浪士だからなのであります。素材にはなっているが、「忠臣蔵」のエートスは感じない「別物」。


註01…のちに「元禄繚乱」で梶川与惣兵衛を演るおかやまはじめ氏と、八の相棒・スカピンを演じた福本伸一氏と、2002年(たぶん)にもりいは演劇雑誌の仕事でラッパ屋の「サクラパパオー」という芝居の特集記事の取材で、お二人と府中まで競馬をやりに出かけている。

まだ、あたしが忠臣蔵に沼る前だったので、その贅沢な機会をただただ競馬の取材(は、ふつうに楽しかった)に費やし、なんとも残念!1日中いっしょだったから、いやというほど芝居の話が聴けたのに!

うわっ2002年は、国本武春さんが福本伸一さんと木村靖司(本作の貞四郎。「イヌの仇討」再演版の泥棒役がお見事でした。)さんらと「ミラクル忠臣蔵」なる舞台を新宿シアタートップスでやってる。

で、その10年後に再会してるが、福本氏は府中の件はお忘れでした。笑

(附言)福本さんたら、2019年の明治座「ももクロ一座特別公演」出てさー、一緒にライブでも踊ってるんだよなあ〜。くそうらやましいっ!!(<第一部の時代劇「姫はくノ一」の脚本がこの「阿呆浪士」の鈴木聡さんの作品)


1998年再演版

再演版のシナリオ本

 舞台を青山円形劇場から新宿シアタートップスに変えて上演。

 作&演出の鈴木聡氏が1996年の舞台のお仕事で浪曲師・国本武春さんと知り合い、再演にあたって武春師匠に三味線の弾き語りストリーテラー役をオファーしたという(<ご当人のブログより。ちなみに初演版で武春さんのパートは、かわら版売の男女コンビがやっていてBGMには映画「スペースキャンプ」のサントラなんかが流れていた)。

 武春さんの浪曲風な台詞については当人にアレンジをまかせたとは言うものの、オリジナルの台詞はほぼほぼ踏襲されており(とはいえ、説明の台詞に時代を感じさせる「浅野内匠頭がプッツンして」など、居心地の悪くなるようなワードが一掃された。)、全体のエンターテインメント度がグッと上がっている。

 台詞といえば、演出には細かくバージョンアップしてる部分はあるものの(要になる、貞四郎と八がおたがいの落とした財布を間違えて拾うところや、最後の切腹シーンなど)本編の台詞は武春さんのパート以外は、ほぼまんまに感じる。

 初演版は円形劇場の舞台の形状を意識した内容だったろうにもかかわらず、規模が小さくなったシアタートップスの舞台もうまく使われており(つか、改造したらしい<要確認)、さらに、気のせいかもしれないが、4年のうちに観客のギャグセンもあがってか、笑うべきところで笑っている印象。

 完成版と言って良い出来栄え。


(蛇足)その後(2012年)、ドラマティック・カンパニーも再演している。


2020年再演版

作品概要
制作会社 パルコ
公開年度 2020年
内蔵助役 小倉久寛
評価 3ツ星
2020年版のチラシ


 さて、どうなるのかな。

 ラサール石井さん演出で、劇場はでかくなり(新国立劇場 中劇場)、役者はジャニーズでもちょっと特別なイメージの、A.B.C-Zの戸塚祥太さん(八)や、ふぉ〜ゆ〜の福田悠太さん(貞四郎)。

 おかやまはじめさんも出るということで、それって映画版「レ・ミゼラブル」に舞台でジャン・バルジャン演ってたコルム・ウィルキンソンが司教で出るみたいなことでしょう!?

 楽しみですっ!


 …ということで観てみたらこれが良かった。

 たぶん、やっぱもともと脚本が上出来なのでしょう(意外に、けっこうマンマだった。無い戸を開けるとき「ガラガラ」ってクチで言うのは小劇場ならではと思っていたのに、やっててうれしかった)。戸塚さんのベラベラ喋って台詞が少し流れちゃうようなところも気にならなかったし。玉川奈々福師匠のアウェイ感も我慢出来た 笑(出番はちょっと違うけど、武春さんの作ったものが尊重されていた)。

 当然かもだが、登場人物に対する注目の仕方や、聞こえてくる台詞などが少し、変わってくるから面白い。

 歌や踊りが増えて、キャラや台詞がじゃっかん整理されて(ドブに落ちるキャラ好きだったんだけどなー)、かつらと衣裳もちゃんとして、ポップに仕上がっております。映画音楽が流用されてたオリジナルとは違い、こっちはコマネチやシェー、ヲタ芸の入った振付でテーマ曲(サビが「流水麺はシマダ〜ヤ〜」をハイスピードにした感じのメロディ)やBGMが用意されている。(ラストにかかってた「蘇州夜曲」好きだったんだけどなー)

 本来なら、赤穂浪士の名を語って初めて注目を浴びるスケベでダメな阿呆な町人役は、ジャニーズのイケメンでは説得力がないはずなのだが、ここは戸塚さんの存在感でクリアしている。

 こぢんまりしたホコリまみれのやぶれ畳みたいなオリジナル版もいいけど、コンパクトなスケールのために用意されたパーツが、華やかな絨毯にちゃんと生まれ変わりました。(<いみふ)(ちなみに劇場のデザインは昔の芝居小屋みたいなイメージで、2階建て)

 そそ。ラスト、貞四郎が死ぬところは、オリジナルでは壮絶なブザマさが光っていたが(BGMに映画「隠し砦の三悪人」のラストの笛のとこ<要確認)、今回はフワッと死んで風の音がかぶる。これはこれでいいな。いやもう、「前と比べてどう」という感じじゃなかった。全体が良かった。

 若手で一番気に入ったのは、「元禄名槍譜」(ダイジェスト)をがんばって歌いこなした戸塚氏にもエールを送りたいが、乃木坂46の伊藤純奈さん。

 ジャニーズはジュニアの時から叩き上げられてるけど、坂道グループでこれだけ出来る人っていうのは才能でしょう?台詞聞き取りやすいし。これからは「乃木坂工事中」も熱心に見ようっと。(欅は好きだし、日向坂は近所なんで、そっちの番組は見てました。)