元禄歌謡赤穂義士伝「忠-SING-蔵」
作品概要 | |
制作会社 | ワハハ本舗娯楽座 |
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公開年度 | 2017年 |
内蔵助役 | 大久保ノブオ |
評価 |
正式名称:ポカスカジャン&大江戸ワハハ本舗・娯楽座合同公演 元禄歌謡赤穂義士伝「忠-SING-蔵」
この芝居を見ながらもりいは手元のメモに以下のようにしるしている…
「わかりやすい図式」「掛け値なしに面白い」「観客がみんな楽しんでる良い空間」「すごく幸せな気持ちになれる」「まちがいなくたのしい」「ラストやばい」「感動」・・・
アイデアも豊富なこの「よくできたはなし」は、もしもどっか別の劇団がシナリオと権利を売ってもらえたとしたら当分これ一本で営業をやって食べていけるんじゃないかという立派な大衆娯楽作品。
劇中で歌われた「空と君のあいだに」の構成は圧巻で、歌声が数日経った今も耳に残っており、おかげでリリースから20年以上経っているこの曲をはじめて好きになってカラオケのレパートリーにしようと思った。
なにより、評判も良かったようである。
…と
これだけ褒めちぎっておいて星が三個なのは、…これはわたしにとってもすごく勉強になった現象なのであります。
私と忠臣蔵を見つめなおす機会であり、拙サイトの基準を我が事ながら知った。
世の中には
1)「忠臣蔵で遊ぶ」忠臣蔵
2)「遊んでるけどこれ、忠臣蔵だよね」という忠臣蔵
3)「忠臣蔵を遊ぶ」忠臣蔵
などの、種類がある。
1)は、素材に忠臣蔵を使ってる別のハナシ。(例「わんわん忠臣蔵」「ベルリン忠臣蔵」)
2)は、違うことをやってるけど忠臣蔵を見たカタルシスに浸れる。(例「薄桜記」「侠客列伝」)
3)は、正調忠臣蔵に工夫が加えられてるバリエーションだ。(例「松本幸四郎」「たけし版」)
今回の作品は(1)「忠臣蔵で遊ぶ」忠臣蔵だった。
忠臣蔵をおおいに使って楽しいパッケージに仕上がっておりましたが、もりいの中の「忠臣蔵興奮度」があがらなかった。
+++++++++++<以下ネタバレ>++++++++++++
吉良を討つため、彼の出場する年末の歌合戦に参加して接近しようと赤穂浪士たちは画策し、主に昭和歌謡で全編を彩りながらお話は進む。
そしてひじょうにさわやかなラストで締めくくられる。
それは、歌合戦のオオトリである吉良が浅野に対して想いを寄せていたことから刃傷事件を引き起こしてしまったという「新事実」を独白で悔いるシーンから始まる。これは良いなと思った。吉良への同情論が高まってる当今、非を認める吉良は潔いかも、と。
そこへ、こはそもいかに赤穂浪士の前に桂昌院が現れて命を投げ出そうとする吉良を止め、実は彼女がすんでで命を救ったという浅野内匠頭をみんなの前に登場させる。「殿が生きているなら仇討の意味は無い」と討ち入りメンバーも吉良の首を取ることを放棄する。
両家ご安泰で「有難や節」が朗々と歌い上げられ場内は大陽気(おおようき)に愉快をつくした空気に包まれ幕になる。
桂昌院や内匠頭はすでに劇中変装して活躍しており流れ的にはまったく唐突感のない許容範囲にあり、今回迎えたゲストスターにピッタリのキャスティングであるから、史実関連にまなじりをあげる気はさらさら起こらない。脳内モルヒネがそれをさせない。
ただ、まちがいなく見終わったあとになにかスカッとしない夾雑物が胸のあたりに残った。
終演後、モヤモヤの原因がはっきりしないまま打ち上げに参加させてもらって、主宰の喰始さんやメンバーの方から「どうだった」と聞かれたあの時ほど困った時間はない。
このお芝居ではチラシの絵も描かせていただき、その絵をグッズ展開もしてくださり、メンバーの方と泉岳寺〜両国を散歩し(泉岳寺をゴールにすると打ち上げ場所に事欠くから、逆コース。)、チラシをいっしょに配り、前夜祭では舞台に上がって司会進行のお手伝いまでし、メンバーの方たちのひととおりではない志が胸にしみいっていたのもほえづらの原因となっている。
2日ほど経って、以下の解答が溜飲を下げた。
「なんで、あのジジイ、生きてるんだ」と。
このハナシだと赤穂浪士は事実を知らされぬまま1年10ヶ月以上いろいろ暗躍した結果、ただただ時間を浪費しただけということになる(この点は演者である犬吠埼にゃんさんもご指摘に)。この徒労の責任は誰も取らない。
さらに殿も含めて赤穂浪士に帰る家は、もう無い。それどころかこのあと徒党罪を問われ、討ち入りメンバーがお咎めを受けるかもしれない。そうして、また吉良は生き残る。
舞台上で歌い踊っているのは恥辱を上塗りされた敗残兵たちなのである。
脳や体がワクワクしていても「赤穂浪士が勝たない忠臣蔵」である顛末はもりいのDNAがゆるがせにできなかった。
正当であれ不当であれ、吉良上野介の「死」はあらがうことのできない「ファイナル・デスティネーション」なのである。
加筆
忠臣蔵ともだちのレビューには「歌合戦の歌の内容が忠臣蔵をなにももじっていない」「女子が忠臣蔵のキャラになっていない」などが書いてあり、これはもう至極ごもっともで、実はあたしも思ったことであった。
しかし、当レビューにその指摘が無いのは、その点は2年前の忠臣蔵公演で本劇団がクリアしていたのを観ていたからだった。
同じことをやってもしょうがない、と新しいアプローチを模索するのはクリエーターとしてアタリマエのことなのだが、ご新規さんには「その事情」は関係ない。
むずかしいところでございます…。