新作落語いろいろ

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2010年2月27日 (土) 01:45時点におけるKusuo (トーク | 投稿記録)による版

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噺家の師匠たちは忠臣蔵を題材にいろいろなお話しを作ってらっしゃいます。


忠臣ぐらっ…立川志の輔

各エンターテインメントに忠臣蔵はあるのに、実は落語だけ無い。というコンセプトから作ったお話し。たしかに、落語の忠臣蔵ものは艶笑小咄の天川屋義平を除いては、芝居の仮名手本忠臣蔵を扱ったものばかりで、芝居好きの誰それがどうしたというハナシばかりである。

志の輔師匠が題材にしたのは岡野金右衛門の絵図面取り。

再三絵図面の奪取を内蔵助から催促され、だんだん討ち入りに後ろ向きな気持ちになってきた金右衛門は自分が絵図面さえ手に入れなければ討ち入りの決行はなくなると考え活動をやめてしまう。しかし彼が酒屋に身をやつした赤穂浪士と知った近所の連中は応援するつもりであの手この手で吉良邸の絵図面を押しつけようとする。

ドタバタ喜劇の構成が面白く、ビジュアル化してもいいんじゃないかと思うくらい。

ただ、なんとなく台詞が安く、まるでその場で思いついて喋ってるかのような完成度だったのが残念。でもアイデアは面白かった。


怪獣忠臣蔵…快楽亭ブラック

忠臣蔵と怪獣映画に詳しいブラック師匠が、生前に円谷英二が語っていた「怪獣をみんなそろえて忠臣蔵を撮りたい」という夢を勝手に具体化したもの。

不肖あたくしもこの2要素は大好物でして、台詞だけ聴いててもちゃあんとインファント島の酋長もダイゴロウもビジュアルが浮かぶんですごく面白いんですが、これCDで聴きますと観客の反応がもうひとつ薄い。無理もないでしょうねえ。怪獣映画と仮名手本忠臣蔵を混ぜたと言ってもツボがわからねえんでしょう。

お話しのほうは、宇宙怪獣サミットの指南番キングギドラが饗応役のモスラを殺すのでゴジラをはじめ四十七士が仇討ちをするというストーリー。

特撮怪獣映画の怪獣を集めても47頭に足りないんで、テレビの円谷プロ怪獣も召集するのだが、ブースカなんて次郎長意外伝の灰神楽の三太郎みたいなやつも参加するんで、仲間がうとんじましてな。「役立たず」と蔑視されるんでそば屋に身をやつしてウルトラマンに稽古をつけてもらうなんていうくだりはコレ「血槍無双」、「元禄名槍譜 俵星玄蕃」なんですよね。念がいってるんですよ。ガメラが垣見五郎兵衛なんだけどBGMが勧進帳なんて「忠臣蔵 地の巻/天の巻」風だったりね、もうキャスティングが完璧!や、あたしも気づかない仕掛けがもっとあるんじゃないかしら。

30分強の噺だがあっという間。コレ、1時間ぐらいのロングバージョンで聴けないかなあ。


吉良の忠臣蔵…立川志らく

立川志らく師匠の「芝居落語」(新作落語)。

師匠が日頃から「ヘンだな」と思っていた、ステレオタイプの忠臣蔵劇を、吉良上野介の視点で描くという、「夜討ちの被害者のおじいさん」のはなし。かなりおもしろかったです。

「なんでもヒトに聴かないで自分で調べたらどうなんだ?」と、出来の悪い部下に業を煮やす吉良と「イジメですか!?」と居直る浅野との関係は、実に現代人の心に響く。ばかばかしいけど、どっかで笑えない、身に覚えのあるやりとりになんとなく息苦しくなったりいたします。忠臣蔵ファンのあたしとしちゃあ、うすうす気づいてるけど見ないようにしていた「不公平」な部分ですしねー。

いろいろつじつまが合ってて、さすがお芝居もこなしてらっしゃる構成力。ちょっとDVDで持っておきたいと思いました。

でも師匠、忠臣蔵を見てて感じてた「歌舞伎でがんじがらめになったストレス」を解消する意味でこのお噺をお作りになったとおっしゃってましたが、出てくるディティールは東映映画で、つまりは「講談」のそれですな。


聖夜の義士…柳家喬太郎

この師匠は「カマ手本忠臣蔵」というのが有名なのだが残念ながら聴く機会を逃しております。そんなにベーコン数の離れている方ではないので機会があったらミッチリうかがえたらいいなと思う。

「聖夜の義士」は毛利小平太の子孫を主人公にそえたクリスマス・イブの奇跡のお噺。

先祖がギリギリになって討ち入りにいけなかったように、サラリーマンの毛利君も出世や恋をすんでの所でライバルの上杉君に奪われている。クリスマスイブのデートの約束も急な上司の残業の命令で行けなくなるが…

世相とあるあるネタのおかげで聴きやすく、プチ・SFなつくりのハート・ウォーミング噺。毛利小平太や忠臣蔵がいまも有名なら「世にも奇妙な物語」がほしがりそうな内容。