喧嘩安兵衛

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作品概要
制作会社 東宝
公開年度 1952年
内蔵助役 ---
評価 1ツ星
公開当時のパンフレット

あらすじ…越後・新発田。中山安兵衛は無二の酒友、俵星玄蕃との御前試合がいや(<どちらかが傷つくのがイヤ。)で脱藩して姿をくらませる。

江戸の「喧嘩長屋」で傘張りなどして暮らしはじめる安兵衛。エノケンを含む長屋の面白い人たちとの小さなくだりがあって、ある日。借金のモメゴトに巻き込まれ、おじさんに金の無心に行くがそこで安兵衛を追って新発田を出てきた玄蕃にばったり。決着をつけんと斬り結ぶうちに心も和らぎ長屋に帰るが長屋のメンバーが高利貸しに連れ去られていた。ので、アジトの水茶屋に乗り込んで奪還。そのあと玄蕃と酒宴した安兵衛はあくる昼に帰宅すると留守におかれたおじさんの書状を読み、高田馬場の果たし合いを知り、駆けつける。・・・


原作付きで脚本家が二人もいながら、どう相談がまとまったらこう仕上がるのか不思議なほどに取るに足らない映画。それでいて無駄にハナシが込み入っていて登場人物が多い。シンプルに「ダメな見本」みたいな作品。

言い方がキツイんで誤解されるかもだが不愉快なことは一切ない。逆に他の作品と並べて5つ星だ1つ星だ言うほうが間違ってるんじゃないかというような、お菓子を食べながら私語し放題でときどき画面を見るぶんにはまったく問題ない、戦後の大衆と娯楽劇場映画のありようを物語ることのできる、誰も傷つけないピュアな失敗作。

とはいえ、失敗作なら失敗作でどこらへんがまずかったかの「特徴」は書き残したい。


さきほど申しあげたとおり必然性のない、安兵衛物語と無縁のエピソードをかぶせたおかげでハナシが無駄に込み入ってしまったのがまずもってクオリティを下げているのだが、そもそも小太り(映画の中でもそう言っている)の安兵衛というのはイメージ的に受け入れがたい(あたしだけ?)。右太衛門とかならまだしもなんでわざわざ27〜8歳(映画の中でそう言っている)の役に44歳の市川段四郎という、映画スターという程でもない人をひっぱってきて主役にかかげてリスクを犯そうとするのか制作側の意図がさっぱりわからない。

準主役のエノケン(長屋の仕立屋…と、思ったら実はスリ)には、展開がダメなところを埋めてもらおうとしてるのか出番がたっぷり与えられているのだが、所作がコミカルなだけで面白いシチュエーションなわけでもないのでその力技もおよばず、監督がコメディを撮り慣れてないのか長屋のドタバタも妙に間延びしてギャグシーンも面白く繋がっていない。

俵星玄蕃が出てるが、安兵衛と同じ藩にいたという大胆なアレンジにはまったく意味がなく、活躍もしないので全然要らない。


戦後の作品で、時代背景を同情の余地に回したいのだが、東宝は同年公開で同じ境遇のプログラムピクチャーでありながらこの映画の主役の段四郎もバイプレーヤーで活躍する「四十八人目の男」という良作を作り上げてるのを見ると単純にはかばいきれない。。

とはいえ、いままでは軍国主義に、それから急にGHQに振り回されながら創作意欲やセンスをこてんぱんにされたクリエーターたちがこの時分に急に占領軍がいなくなって自由になり、逆に「なにをどう作っていいか」混迷してるとも予想される。この次の年くらいから続々と傑作が生まれ始めるのはたしか。エネルギーを充填している時期とも言えそう。


ちなみに、安兵衛の脱藩に見て取れるように「この頃」の映画によくある「宮仕えなんかつまらん」的な自由をたっとぶような価値観や、「喧嘩はつまらん」という争い事に否定的な台詞がやっぱり出てくる。(タイトルは「喧嘩安兵衛」なのに)


主役の市川段四郎さんは、「忠臣蔵 花の巻雪の巻」で片岡源五右衛門やってらっしゃいます。「ご存知遠山の金さん」(TV版2代目金さん)の四代目段四郎のお父さんで猿之助(4th…元・市川亀治郎)のお爺さんで、香川照之のおじさんにあたる人。

滝沢英輔監督

共演:田代百合子。榎本健一。・・