東芝日曜劇場 女たちの忠臣蔵〜いのち燃ゆる時〜
作品概要 | |
制作会社 | TBS |
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公開年度 | 1979年 |
内蔵助役 | 宇津井健 |
評価 |
橋田壽賀子ドラマ。
忠臣蔵に登場するキャラにまつわる女性(ほとんど架空)に焦点を当てたテレビサイズのスピン・オフ。
東芝日曜劇場初の3時間ドラマ。1200回記念番組。視聴率42.8%!
浪士にまつわる人々のサイドストーリー。身分を隠して大志にまっしぐらの人間とつきあった女達は、浪士が本懐を遂げたあと、どんな思いを…。
いまだに明治座でお芝居やってます。
そつがない。おなじみの題材を使ってフィクションを作るというのは脚本家のアレンジの腕の見せ所。(とはいえ、物語は忠臣蔵ストーリーの後半のお話です)(註01)
「忠臣蔵」というドラマのどこの部分が日本人の琴線に触れてるのかを掌握し、キープしながら新しいフィクションを作っている。根本がわかってないとこういう脚本は書けない。これはプロの仕事。(註02)
たとえば天野屋利兵衛のエピソードを渥美清(註03)演じる刀研ぎ師の江戸っ子親子に置き換えて描いているが、泣けた。もともと大衆は町人が活躍して役人をへこます話が好きだ。吉良側のやとわれ侍を敵にしてそういうエッセンスをうまく取り入れてる。
また、討ち入り後松平家のお屋敷に軟禁(拘留?)されてる岡野金右衛門が塀のこっちとむこうでカノジョと鼓(つづみ)のセッションをする場面はカキワリのしょぼさをも超えて美しく、涙が止まらない(註04)。四家お預け後のこうしたエピソードなら、ほんとは磯貝のほうがよかったんじゃないかとも思うが、岡野の恋は「色仕掛け」ではなかった証明をどっかでしてほしいと思うファンの気持ちをよくわかっている。
いろんなバリエーションの「女」のいきざまをカッコよく見せたアンサンブル・プレイ作品。
ともかく、これでもかと女優をふんだんに一堂に会し、コレも見応えがある。
大胆な創作はありますが、そもそも仮名手本忠臣蔵をはじめ浪曲も講談も怪談も腕利き作家の創作なわけで。忠臣蔵はみんなのドラマ。面白きゃ何でもアリです。サブのキャラを膨らませれば膨らますほど討ち入り後がドラマチックになるんだという「仕掛け」をうまく利用している。
意外に討ち入りシーンが迫力あり。
舞台版もございます。>「忠臣蔵―いのち燃ゆるとき―」(2007)
んま、サイドストーリーであって忠臣蔵じゃないから、遠慮して星4っつ。
註01…江戸潜伏中の息子・主税や夫・内蔵助に会うためにりくが江戸下向するところから物語は始まる。それまでのいきさつは「口跡の良い」森光子のナレーションでさらわれるが、ドラマの死命がかかったこのオーダーに、森の気合はすごかったらしく、編集途中のビデオを自宅にもって帰って全部見て、ナレーションのセリフも生得の記憶力でほとんど覚えてきて録音に臨んだという。(鴨下信一「昭和芸能史 傑物列伝」文藝春秋 刊)
註02…君主のために命を捨てていく男たちのそばで、仇討ちをしないでほしいと思った女子たちもいたはずだ、と思いついたプロデューサー・石井ふく子は、こりゃ戦争否定にもつながると感じ「イケるわ!きっと新しい忠臣蔵が描ける!」と、ノリノリになって、後日、別件のロケハン列車移動のさなか、ディレクターの鴨下信一(「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」)に話し意気投合、そこでタイトルまで決めちゃったという。
ところが資料を探しても「義士の女たち」についての記録がなかなか見つからず、とにかく橋田壽賀子(彼女もノリノリで引き受けたという)の手腕に頼るしかなかったようだ。香川京子の目の不自由な登場人物(義士の姉)は講談の一節から発想したそうで、石井と橋田のふたりで話し合いながら、佐良直美のお母さんの実際のエピソード(佐良の公演成功を祈願してお母さんが彼女の名前をいっぱいお習字する)をアレンジしたり、「最後、自殺しちゃうっていうのはどうかしら!?」と盛り上がったそうである。(大下英治「石井ふく子 女の学校」文藝春秋刊)
註03…まっったくの余談だが、渥美清主演の映画「男はつらいよ」シリーズの冒頭の夢のシーンには「忠臣蔵」はありそうで無い(のはず。と思う)。
しかし19作目「男はつらいよ 寅次郎と殿様」の中で、愛媛は大洲の殿様・嵐寛寿郎が使用人の三木のり平に刃傷におよぼうとするシーンで寅さんがアラカンを「殿中でござるぞ!」とうしろから抱きとめるシーンがある。アラカンは「武士の情け!お離しくだされ!おのれ上野介!」のり平は「お出会いめされ!殿ご乱心でござるぞ!」と言いながら、ひとり部屋を出て「宮仕えはつらいね」とこぼす。
ちなみに17作目「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」では桜井センリ演じる播州龍野の観光課長が市内観光中、寅さんに「この通りが忠臣蔵で有名な山崎街道です」という場面がある。
本作には1作目からちょいちょい出てくる「浅野内匠頭じゃなけど腹切ったつもり」という啖呵売シーンもある。
註04…お茶の間・もりいのひどい言い草だが、実際は本作のセットは大変なこだわりの上に作られたそうであります。たとえば、豪華なふすま500枚を京都に一軒しか無い専門店に特別発注したり、雪なんかは30kg×400袋用意。セットにはわざと新建材を使わないなど、こだわりに余念がなかった(大下英治「石井ふく子 女の学校」文藝春秋刊)。あたしが言いたかったのは、建材うんぬんではなく、デザインのほう。
石井ふく子プロデュースのTBS忠臣蔵女ドラマ