桃中軒雲右衛門
シンプルに傑作。
忠臣蔵モノで一気にスターダムにのし上がった実在の明治時代の浪曲師・桃中軒雲右衛門の物語。
伝記映画というよりは九州から上京して東京でも評判を取る一時期を映像化している。
「おれのカラダは傷だらけだ。完全を求めるなッ」
芸に生きようと、やりたいようにやる気まぐれやわがまま。
そんな芸術家の考え方や心持ちを、うまくズシリと来るセリフにして散りばめる真山青果の原作(<は、知らないけど。これが良かったんじゃないかと。)も見事だが脚色もした成瀬巳喜男監督の紡ぎ方にまた文句がない。
古い作品にもかかわらずどっかでかかったのか、比較的最近(2018.12月現在)観たという人のレビューをネットに5件ほど見つけたのだが、映画のクオリティとは別に雲右衛門の生き様はまったく受け入れられず「クズ」「理解できない」とさんざん。(あッYouTubeにあがってやがら)
あたしの朋友・国本武春氏の曽祖父師匠に当たる雲右衛門への馴染みや、月形龍之介びいきなのが他の人とあたしとの感想を違えたのかとも思うが、映画に共感を覚えようとする人にはたしかに家族をもかえりみない雲右衛門にイラッと来るのかも。
最初、浪曲を語るシーンで雲右衛門を演じる月形龍之介のリップシンクロがピッタリだなと思ってたら。コレなんと月形龍之介がそっくりに演じているのだった!すごすぎる!そっくり。
でも、月形当人は「レコードを買い集めて猛練習をした。」「雲右衛門という人の節回しは"三段流し"とか言って、一節を三段階くらいの節回しでズーッとうたい通すンだね。実にすごい声量なンだヨ。これが難しくって、シャシンは滅茶苦茶になっちゃった。」と、反省している。(近代映画 臨時増刊 S31 no.133)
「くすや」に取り上げたのは雲右衛門が忠臣蔵でブレイクし、新発田や山科などいろいろ寄進もしているゆかりがあるから。劇中でも浪曲「村上喜剣」(あともうひとつは「南部坂」かなあ)や仮名手本の四段目にまつわるエピソードが出てまいります。