鍔屋宗伴
鍔屋宗伴【つばや そうはん】
元・内匠頭の側用人、服部右内(はっとり うない)。
松の廊下事件からさかのぼること3年ほど前。書画刀剣の目利きで、殿様に「掘り出し物」という価値観を入れ知恵したことで筆頭家老内蔵助から謹慎を食らって、その堅苦しさに嫌気がさし、ケツをまくって脱サラ。江戸に下って下谷池之端で「鍔屋宗伴」の名前で茶道具屋を開業。これが繁盛して倉をいくつも持った。
そして元禄14年。殿中の騒動。
「ああ自分はいい時に殿様を見切ってラッキーだったなあ!」と喜んでおりましたところ元禄15年。ある日、木挽町(こびきちょう)の山村座に芝居見物をしに行くとかかってた芝居が刃傷モノ。設定こそ違え1年前の自分の殿様の事件がモチーフになってることが一目瞭然。ギャラリーが「モデルになってる浅野様っていうか、悪いのは種をまいたのは家来らしいぜ。家来の服部右内とかいうのが殿様に教えるに事を替えて諸道具の目利きとか教えたんだってよ。それだから水野様の屋敷で照月という掛け物のことで吉良をやり込めたそうで、それを根に持たれたらしいぜ。遺恨の種さえ巻いておかなきゃあ、あんなことにはねえ」と噂するのを聞く。
宗伴はそれを聞いていたたまれず芝居小屋を出て本所に用事があったのでそっちに行き、吉良邸の近所のそば屋に入って帳場を見ると昔の朋輩吉田忠左衛門。顔を背けた先でそばを打ってるのが潮田又之丞!そのほかホールスタッフに矢田五郎右衛門、前原伊助!
あわてて店を飛び出し「なんだあいつら、江戸でそば屋なんぞして。たかられちゃたまらない」とひょいとみるとベロベロに酔った八百屋…これが堀部安兵衛!これも面倒と横町に入ると間瀬孫九郎が魚屋でやってくるetc...。これは奇体だ、どうなっちゃってんだ!?とパニックするも、「ははぁ!仇討ちのスパイ活動かあ!」と気づく。
自分ばかりご恩を忘れ、気楽にいい気になっていたことを恥じた宗伴は単独で吉良屋敷に出入り営業を開始する(<もともと江戸にいて有名で不審がられず賄賂もそつがなく、そもそも出入りしてた業者が口添えをしてくれた)。
家に帰ってはコツコツと絵図面を製作。本石町の池田久馬こと内蔵助の家にそれを持参してメンバーにしてもらおうとしたが、浪人した者まで加えたんではご本家への聞こえも良くないと言うので、ようやく連判だけは許された。
浪人で加わってる不破数右衛門はどうしてくれんのかな、というおはなし。
質実剛健な戦時中の講談本には、絵図面取りに関しては色っぽい岡野金右衛門のエピソードではなく、こっちの鍔屋宗伴のほうが採用されてたりする。
池波正太郎の「おれの足音」には藩士に服部小平次という骨董好きが登場し、事情は異なるが脱藩して上野で鍔屋家伴(いえとも)という道具屋になる。
講談本のキャラと同じく、吉良邸内に探りを入れて内蔵助達のために活躍をする。