霊験お初〜震える岩〜
とにかく真っ先に言いたいのは、テレビ朝日さん、好きすぎ!
そもそも赤穂義士終焉の地に局舎があるのがこたえられないんだけど、必殺でもクレしんでも戦隊モノでも忠臣蔵をやるし、田村正和さんご存命の折も急に正調モノやスピンオフ作ってくれるし、今回のこの作品もオカルト要素がある忠臣蔵ものだが、夏でもなきゃ師走でもないゴールデンウイークというタイミングで放送する、このやりたい放題よ!
感謝します!
享和2年。飲食店ホールスタッフの町娘・お初は霊能力があり、謎の殺人事件を解決する捕物帳。
主人公のお初を演じるのが上白石萌音さん。この荒唐無稽な主人公の設定を見事に演じきっておられまして、「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段(←解説は下部)」でもそうだったんですが、安定の演技力。
登場人物の各設定や、出ている役者さんたちの魅力が大きく働いて2時間近くが楽しい。
あと、「時代劇を作ろう!」という心意気というか、スタッフが楽しそうにビジュアルを整えてる気がする。そう感じる好感度の高いエキストラや小道具やセットだった。
内容は、生前に一家心中しようとした浪人の霊が悪さすると言うんで退治する話なのだが、浪人の死霊の悪目立ちのせいで赤穂浪士がかすみ、見終わったあと「あれ?で、赤穂浪士については、なんだったっけ?」と思ってしまった。見ごたえはあるんだけど赤穂浪士、要るか?という内容。笑
もう一回見直してみたら、舞台となってる時代の100年前(元禄時代で討ち入りの前)に、吉良屋敷でガードマンで雇ってもらった、とある浪人が、なんだか乱暴で目に余るってんでクビになって、その場に居合わせた「幻の赤穂浪士」(内偵で潜り込んでた)が、クビになるようすを見ててなんだか心配になったんで彼のうちまで尾けてみたら、やっこさん子供や身ごもった奥さんを殺してたんで飛び込み、襲いかかってきた浪人の抜き身の刀身を素手で鷲掴みにしながら(ダイジョブか?)やっつけた。やっつけられた浪人が死霊となったのだった。
百年前の浪人の死霊がどうしていまになって悪さを始めたのか、なんの因果で「幻の赤穂浪士」の霊も一緒になって(ドラマじゃ描かれてないし触れられてないけど殺された母親の胎内から片手でどう赤ちゃんを取り上げたのか知れないが、そうしたご縁?)それを今生に生きる人々に伝えるのに、亡君(浅野内匠頭。いよいよ無関係)の終焉の地で怪奇現象(岩を震わせる)を起こすのか、消化不良。
一応、悪法きっかけで浪人になって正気を失った死霊を、お手軽な裁定で浪人になった幻の赤穂浪士の霊が共感したということになってるが、動機が弱い。(違うのかな?もう一回見てみるかな。…て、クリストファー・ノーランの映画かっ)
ともかく、いろいろ付き合いのいい「幻の赤穂浪士」の霊が力を貸してくれて、最後は見事にお初が悪霊を討ち取る。
「幻(まぼろし)の…」の意味も最後までよくわからないのだが、これについてはわざわざラストに赤穂・花岳寺の「義士出立の図」を持ち出して「なぜか一人だけ背を向けている。なぜ晴れがましい席で背を向けているのか謎のままです…」と、いわくありげにドラマを締めくくっている。
ドラマを見て腑に落ちない部分に、もっともらしいナゾ要素をぶちこんでミステリーっぽい雰囲気で煙に巻くのは、なかなかニクい。
ちなみになんですけど、花岳寺からちょっと行った大石神社所蔵の絵「赤穂義士四十七士画像」ではふたり、むこうを向いてます。東京、泉岳寺の「義臣四十六傑画像」では…(以下略)
イラストレーターから言わせていただくと、47ポーズ描くのにバリエーションがほしいんで後ろ向きの義士を入れてるのかなと。
もっとちなむと、花岳寺の作品で背を向けてるのは吉田沢右衛門。大石神社のは不破数右衛門。神崎与五郎。いずれの義士も幻でもナゾでもありません。