天野屋利兵衛
天野屋利兵衛【あまのや りへえ】…討ち入りのための武器調達を働いた支援者。堺の北浜一丁目にお店がある廻船(かいせん)問屋。苗字帯刀御免で、本名は松永利兵衛。
浅野家がお道具の虫干しをしてた際、瑠璃南京の香盒(こうごう:お香を入れる容器。)が紛失し、出入りに来てた天野屋利兵衛が疑われたが、あっさり「ワタシが盗んだ」と白状する。しかし言ってるそばからブツが出てきたので詮議していた内蔵助がなぜ嘘をついたか聞くと、「そうしないと、係の貝賀さんや磯貝さんが切腹になるから」と答え、一同感動。
のちにいたって内蔵助は彼にすべてを打ち明け、夜討ち道具をオーダーする(講談本 講談に「雪江茶入れ(せっこうちゃいれ)」)。
討ち入りの前に大阪奉行所が討ち入りの支援をしたかどうかを詰問されるが「天野屋利兵衛は男でござる。」と言って口を割らない。
目次
人形浄瑠璃/歌舞伎
「仮名手本忠臣蔵十段目」では名前が天川屋義平(天河屋義平)。
作戦実行のために奉公人をリストラし、奥さんも田舎に帰すという徹底ぶり。
手元には阿呆の丁稚・伊五と4才の子・芳松のみ。
伊「だっこしてやっからな」
芳「おっぱいがないからいやだい」
伊「しょうがねえなあ。おまえが女の子なら乳よりいいものをやるんだが、男同士でツノ付き合ってもなぁ」<大胆シモネタ
そこへ直接大阪奉行の役人たちがドヤドヤと詮議にやってくる。
正体は、変装した元・塩谷藩士(赤穂浪士)だが、芳松をダシにしたりしてさんざん脅迫して義平の本心を探ろうとする。が義平は口を割らない。それどころか武具が入ってると見えるむしろで包んだ長持の上にドッカと座って抵抗する。
役人が芳松ののど元に刀を突き立てて脅すが「やるならやれ」と取り合わず、仕舞にはこうキメる
「天川屋義平は〜!アッ男でござ〜る〜!」
すると潜んでいた由良之助(内蔵助)が感心して出てきて「ごめん!ためした!ドッキリでした!」と詫びる。天川屋の根性への敬意から「あま」「かわ」と討ち入りの合言葉を彼の名前にした。
土性骨の座った、迫力のあるたいへんかっこいいキャラ。
浪曲
大阪西町奉行のおしらす。大量の武器を用意させた注文主の名を白状するよう、すでに再三再四の拷問を受け、肉が敗れ骨が折れ、血だらけの天野屋。ついに奉行所サイドは子供・芳松を火責めの拷問にかけようとする。
ここで白状しては浪士の苦労は水の泡だと、泣き叫ぶ息子に「笑ってその鉄板(てついた)をわたってくれ!自分も死んで一緒に死出の旅はてをひいてやる」と声をかける。
「町人なれど天野屋を思い見込んで頼むぞと引き受けました上からは、たとえ妻子がどのような水責め火責めに合うとても、これで白状したのでは頼まれました甲斐がない。天野屋利兵衛はアンアア〜アアア〜♪おとこでござる」
そこへ天野屋の女房・スエがひったてられてくる。天野屋は自分の変わり果てた姿を見たり拷問にかけられそうな息子を見たらきっと女房がよけいなことを喋ると踏み「この女は発狂したので離縁しております」とはじめてうろたえる。
予想どおり、状況を見かねた奥さんがこれまでの浅野家と夫の関係をペラペラと話し始めるが、聞いてるうちに奉行は次第にスエの語る利兵衛像に打たれ、しまいには核心に触れそうになったところで奉行のほうが「あーお前の女房はキチガイだ!聴こえないよ!」と折れてくれる。
討ち入りのあと、奉行は利兵衛と膝つき合わせて詫びを入れ、利兵衛は白状し、釈放される。
その後利兵衛はハタチになった芳松にあとをゆずり76歳でこの世を去る。
セガレ芳松が熱した鉄板を渡らせられそうになる描写は、そのまま「赤穂義士」で映像化されてる。子供が焼かれそうなのに口を割らない利兵衛のほうが「乱心」ということでお奉行が見逃してくれる。
講談
お家改易後、妻を離縁し、7歳になる息子・しちのすけを引き連れて内蔵助に会いに行き、「仲間に入れてくれ」と頼むが、「あらためて頼みたいことがあるから堺に戻ってくれ」と言われ、のちに武器調達を依頼される。
夜遅くまで仕事をしている利兵衛を怪しいとにらんだ奉行所が家宅捜索をすると大量の忍び道具・改造ろうそく立てが出てくるので引っ立てられる。
厳しい詮議にもかかわらず依頼者が誰なのか口を割らない利兵衛。
やがてしちのすけがひきずりだされるが「頼まれましたお方様には義理という二字がございまする。他人さまの義理の二字にはわが子の愛は捨てねばならぬものとか。打つなと蹴るなとご勝手に。天野屋利兵衛は、男でござりまする。」
奉行はしちのすけを打たず、下げる。そこへ離縁した女房・ソデが現れ、夫や息子の難儀を見かねいろいろペラペラ喋ろうとするが奉行がソデの供述を「あり得ない」取り合わず、それから一切取り調べをしようとしなかった。
討ち入りがあったあと、取り調べれば忠義の邪魔。と奉行は利兵衛を釈放する。
落語
天河屋義平
夜討ち道具を発注した内蔵助が義平の奥さんに横恋慕。商売女とは違った色気に惑わされたのだ。江戸出立の前の夜に約束を交わし、内蔵助が夜這いに行くが義平は女房の危険を察知して寝間を交換しており、内蔵助にチンポコをさわられたところで「天河屋義平は男でござる!」と飛び起きる。
映画「江戸むらさき特急」で映像化されている。
Wikipediaには実在した大阪商人天河屋理兵衛や京都の綿屋善右衛門がモデルとされた、とあり、宝塚の「忠臣蔵ー花に散り雪に散りー」では大奥出入りの豪商として綿屋が出てくる。。
ドラマには別の豪商の支援者がしばしば登場する。「元禄繚乱」では紀伊国屋文左衛門が支援を申し出た。中島五郎作なんていう京橋の豪商が出てくることもある。
関連項目
- 大石内蔵助(依頼人)