忠臣蔵ー花に散り雪に散りー

提供: Kusupedia
移動先: 案内検索
作品概要
制作会社 宝塚雪組
公開年度 1992年
内蔵助役 杜けあき
評価 3ツ星
公開当時のパンフレット

宝塚!?と最初は想像もつかなんだが、見てみると意外にすんなりなじんでいる。(本をもらうまでは出演者も「宝塚で忠臣蔵?」と、不安だったと杜けあきさんは言っている(NHK BS「宝塚スペシャル さよなら杜けあき」)

宝塚はどんな題材でやってもちゃんとミュージカルにしちゃうからスゴい。

オープニング「よいよいよーいの、よよいや、ヒャ〜!」という能天気な歌で始まるが、これが意外に元禄時代のゆるさを一発で表現している気がした。

そうした空気をのびのび見せられるのも旧宝塚大劇場の舞台のデカさが効いていて、その後も松の廊下も華やかで立派だし、やっぱ撞木町は華麗。(加筆:大きさだけで言うと、この公演のあとに再建された新宝塚大劇場のほうが大きいっちゃあ、大きい)


さて、おはなしはスタンダードだが、「え、それもここで言わなくっちゃダメ?」と思うほどセリフの中に情報量が多く、これは同時に脚本家がどれほど忠臣蔵を「こなし」、こだわってるかの証明でもあるのだが、ビギナーにはおよそ不必要?と思われるような赤穂事件情報までセリフに盛り込まれているので、これをサービスととらえるのか、熱量を"ディープ"ととらえるのか、ビミョー。

もうちょっと刈り込むと誰が見ても愉快な歌劇になるんじゃないだろうか。変なところが「重厚」な作品であります。

(加筆・・・漫画「ZUCCA×ZUCA」(はるな檸檬 講談社刊)によると、ヅカヲタの方はフランス革命にしても源氏物語にしても、取り上げられる題材は予習して出掛けるそうであります。すばらしすぎる。)

(さらに加筆・・・公演当時16歳の遼河はるひさんは観劇して「宝塚受験する前に生で見てめちゃくちゃかっこいいしお話も大好きで…」と当時を振り返っている。高校生にも刺さってた。(NHK「えぇトコ」2023.11月放送)

(さらにさらに加筆・・・これが後述の「朗読劇」で1時間半にバッサリ刈り込んで、すごく整理されたという。ご出演のみなさんで泉岳寺に浅野内匠頭と大石内蔵助の追善供養をされた際に(もりいくすお随行)、杜けあきさんが故・柴田侑宏先生のお写真をお持ちになっていらしたので、先生も「まぁ、ええやろ」と大目に見てくださったかと思います。笑)


上杉家側から「お蘭」という間者が大石内蔵助を葬ろうとして逆に惚れちゃうロマンスなシークエンスが大きく加えられているのがヅカっぽい(?)。


討ち入りは四十七士のダンスでイメージされ、実際のチャンバラは無い。厳密に言うと小林平八郎1人だけ相手にした、ごく短いのはあるのだが、台本(初稿?パンフレットに掲載)の段階ではもっと殺陣が予定されてたのに、なんでやめちゃったんだろう。


杜けあきさんの退団公演でもあり(このあと取り壊しになる旧宝塚大劇場の最後の公演にもあたる)、最後の最後、内蔵助の彼女が「もはやこれで思い残すことはござらんっ!」と言ってハケるサマは内蔵助の辞世ともかぶってなかなかジーンと来る。

これはもともと台本には無かったが、杜けあきさん退団に合わせてわざわざ柴田先生が足したセリフで、「コレをいうときは大石内蔵助から半分、杜けあきに戻っていいぞ」というお言葉があったとか。(NHK BS「宝塚スペシャル さよなら杜けあき」)

ちなみに新人公演では香寿たつきさんが内蔵助だったようだが、「思い残すことはござらん」は言うたんかな。(<2025年加筆。先述の随行の際、香寿たつきさんにうかがったら「わたしもそのセリフで演りました」とのことでした。)


後半のレビュウは衣装も和風なアレンジ。ラインダンスは「討ち入りの衣装をロケット用にデザインした」という真っ赤なコスチュームがいいのか悪いのか「かなり独特」なのだが、よくわかんないけど萌え


<附言>

(2018年加筆)当舞台で中村勘助を担当した汐美真帆さん(当時デビューから3舞台目)と、喰始先生のご自宅でご一緒した時「これの再演がないのは、内蔵助役を演る人がいても安兵衛役などほかの義士の配役が、現在難しいのじゃないか」という、個人的なご意見をうかがった。

(関係ないけど、メンツもさることながら、実は1992年の公演では男役が足りなくて四十七士を44人で演っている。)



朗読劇「忠臣蔵」

公開当時のチラシ

 再演の実現は無いものの、2025年3月に東京のよみうり大手町ホール、および兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールで、「忠臣蔵ー花に散り雪に散りー(以下"オリジナル")」は朗読劇『忠臣蔵』としてよみがえった。宣伝文句は「作品の魅力を継承しつつ、歌と台詞の力を通じて作品の芝居としての新たな一面をお届けいたします」。残念ながらあたし、舞台は未見。

 小乙女幸さん(大石りく)にお会いしたときに「ええッ見てないんですか!?」と言われて、穴があったら入りたかった。でも小乙女さんは優しく「でもカメラも入ってましたからCSとかで放送するかもしれません」と教えてくださった。

 おっしゃるとおり、めでたく同年10月に宝塚歌劇専門チャンネル タカラヅカ・スカイ・ステージの放送によって視聴が叶いました!

 出演(敬称略):杜けあき、紫とも、香寿たつき、渚あき、成瀬こうき、彩吹真央、立ともみ、小乙女幸、朱未知留、はやせ翔馬、寿つかさ。

 大高源五の「両国橋の出会い」や橋本平左衛門のエピソード、さらには要所要所に挟まれていたおもしろシークエンスや元禄時代の明るさ、コメディリリーフだった堀部弥兵衛などをばっさりカットして、かけあしなダイジェスト(一時間半強)ではあるが、「いいとこどり」の贅沢な構成になっている。また、朗読劇とは言え、ここぞという場面は読まないで、インプットした台詞で演技に入る(現役時代のようなオーバーアクションや声の貼り方ではなく、落ち着いた芝居運び)。

 衣装は黒を基調に、袈裟懸け(いや、左肩から前腕部にかけて?)に、ひとりずつみんな違うデザインの金色があしらわれた、着物風パンツスタイル。そして生バンド演奏(pf、dr、db、vl)で進行する。

 33年の歳月が出演者のみなさんのスキルを見事に深めており、若き日の杜けあきさんも良かったが、お歳を重ねた"おとなの内蔵助"はこれまた重厚で説得力があった。

 また、キーパーソンではあったが、正直、オリジナル版ではアクセント的な印象でもあった(←個人の感想です)紫ともさんのお蘭の存在感が増幅しており、すごく"幅がお出来になった"(劇中の台詞より引用)。(加筆:オリジナルにあった"歴史知識披露場面"をゴッソリ削ったおかげで、本来のキャラクターの魅力が浮き彫りになったのかもしれない。)

 人数は限られているので、杜さん以外は掛け持ちでいろんな役をやるのだが、オリジナルメンバー同士が当時のやりとりを再現する場面ももちろんあり、なんとも感動もの。そういうときは、かつての舞台上での同じシーンの写真が背景に映写されるので、演出にもそつがない。

 おおむねオリジナルと同じ流れだが、討ち入りの場面に入る前に、レビューで歌われていた「時の流れ」(この歌好き)が香寿たつきさんによって朗々と歌い上げられる。

 で、討ち入りが終わって例の決めセリフのあと、本編では今回カットされてた「元禄の春」や「花に散り雪に散り」(註01)などがフィナーレよろしくみんなで歌われて幕となる。こういうリバイバル、たのしい!

 舞台のオリジナルメンバーで再演って、涙ものですな。

 

註01…余談も余談だが、大林素子さんはバルセロナ五輪のとき、この歌を口ずさんで大会に臨んだとお話くださった。



関連作品