畳屋
畳屋【たたみや】…畳替え事件(後述)で大勢繰り出される職人。
全体を取り仕切る畳屋の親分というのがどのドラマにも出てきて、たいがいは堀部安兵衛の中山姓の浪人時代に仲良しだったという設定がなされ、突拍子もない量の畳替えを旧好に免じて引き受ける。
もともと動機のはっきりしない浅野の刃傷は、それだけしか描がかないと「アホみたい」(←あたしが言ったんじゃありませんよ。市川雷蔵さんがそうおっしゃってたと。(別冊近代映画 '58/「時代映画」No.35))なので、吉良がいじめて、若い大名のプライドが傷つけられる前提が必要であり、その点この「畳替え事件」があると、お客さんの感情が移っていく。
東映ではエノケン。東宝は金語楼。ミフネ「大忠臣蔵」ではコント55号、錦之介版ではラッキー7、里見版では東八郎、北大路版では猫八と、むかしはコメディアンが担当することが多かった。
映画やテレビでは、ほんとうの職人さんの新しい畳を作る手元のアップなどが挿入されてて楽しい。「大奥」のパロディでは襖(ふすま)替え事件とアレンジされており、やはり襖の製造工程が披露されていた。
畳替え事件
大イベントの準備中、休憩所の寺の畳は変えないでいいって吉良から事前に言われてた内匠頭。ゲストが来る前の晩になってスタッフが飛んできて「やっぱり畳替えって必要みたいですよ。伊達さんのエリアは済んでるそうです」ということが判明して「エーッ!200畳もあるのに今からじゃ絶対無理じゃん」と浅野家スタッフは大わらわ。
下町に顔が効く堀部安兵衛たちが奔走して江戸中の畳屋がかき集められ、明け方までになんとか全畳替えが間に合ってよかったね。それにしてもあの吉良のやろう、ウソを教えやがって!というエピソード。
<附言>
2021年公開の映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の美術から依頼を受けた西日暮里の森田畳店さんは、10人がかり(だったかな)で112枚を10日で仕上げた。ほんとうなら1ヶ月かかるらしい。(フジテレビ「イット!」2021.11.3放送より)
では、忠臣蔵のエピソード=一晩で200枚は、何人の職人が必要か。計算では1人が1日に約1.12枚の畳を作れる。200枚を作るには、200÷1.12=178.57人。約179人の職人をかき集める必要がありそうです。
<附附言>
だが、べつの畳職人さんのブログによれば、機械ではなく手縫いの場合、表替えの畳一枚が出来るまでの時間はひとり約50分で出来るとか。(←上記007の畳とはたぶん用途や仕上げなどに違いがあると思います)(出典:畳職人 樋口裕介さんのブログより)
だとすると、上の計算はだいぶ変わってまいりまして、職人さんが休憩などを含めて、実働8時間(480分)としますと、480分÷50分=9.6枚。とはいえ搬入・縫い糸交換・表替え準備などの時間もあるので、現実的には7枚/日くらいいける見込める。すると「一晩で200枚」を作るには200÷7=約28.6人。30人も集めれば完了しちゃう。
それも、30×1.2=36枚/時だと、200枚を作るのに必要な時間は、200÷36=5.55時間≒5時間33分。
ということで、ドラマでは夕方くらいから始めて明け方に終わってますが、樋口裕介さんなみの職人が30人いたら、23時頃には作業は終わってます。
逆に。もしも作業を明け方まで時間をかけるとしたら、めっちゃ余裕ありすぎて、「親方、あっしゃあ、いったん帰って飯食ってきまさあ」「あいよ。ああいけねえ。居眠りしちまった。あと何枚だぁ〜!?(と言いながら煙草をのみ始める)」みたいな感じになるかと。笑