「超忠臣蔵」を10倍楽しく見る方法
この度はアニメ「まんが超忠臣蔵」をお楽しみいただきましてありがとうございます。
意味がわからんというお声をほうぼうから頂戴いたしましたのですが、
とるにたらない作品ですので「それでもかまわん」とお答えいたしていたのでありますが、
もしも元ネタを知ってたら、一層お楽しみいただけるのではないかと思いまして、
このたびこちらに解説コーナーを設ける運びとなりました。
デタラメに登場しているかのように見える、各キャラクターは意外に史実上の登場人物だったり講談の人気者です。
「そんなに書くことがあんのかよ!」というほどオマージュやパロディ、イースター・エッグが詰まってるパスティッシュです。
なにとぞ諸君ご愛読のほどを願いまする。そして、あらためてアニメをお楽しみくださいませ。
まず、主題曲はもりいのオリジナルですが三船敏郎の「大忠臣蔵」のオマージュでもあります。
声の出演は基本的にすべてもりいがやっておりますが、2話目からはゲストスターが登場しております。
目次
第1話 「刃傷!松の廊下」(3分15秒)
出演:浅野内匠頭。吉良上野介。茶坊主達。梶川与惣兵衛。片岡源五右衛門。脇坂淡路守。お軽。早野勘平。不破数右衛門
イベントのゲストの接待係を任された浅野内匠頭と、イベント部長の吉良上野介の「ケンカ」のおはなしです。
吉良は浅野と仲が悪いので、イベント当日に着てくる衣裳や出勤時間について嘘を教えたりして、さらに「城の中をうろついて、まるでフナのような侍だ」となじって徹底的にいじめます。
これは歌舞伎、講談、浪曲、映画ではおなじみのシーンですが、その際はもちろんビキニは出てきません。
時代劇が廃れたこの時節には、「烏帽子大紋を着てこなければいけないドレスコードを長裃着用と言ってウソを教える」という吉良のいじめがいかに内匠頭にとって恥辱であったかは、漫画の役割としてはここまでデフォルメしてやっと通じるものだと確信しております。
さて、このデフォルメについてあるユーザーから山上たつひこの漫画「兇変松の廊下」(喜劇新思想大系)に似てるというご指摘がありました。指摘があるまで私は見たことがなく、その作品では内匠頭が教えられた登城の正装は「全裸でオシッコをしながら歩く」というものでしたが、私のビキニとの関連はなく、あくまで山上氏と私の発想が単に似ていたという宿縁でございます。
内匠頭をはがいじめにするのは梶川与惣兵衛。内匠頭をねじ伏せる実在した人物です。怪力である設定は講談などに出てきます。マンガでは強調して、彼だけ劇画調になっております。
冒頭から登場する茶坊主は、松乃廊下のシーンではおなじみのスタッフです。
「お召し物が違います」と教えてくれたのは三阿弥。
二度目のはがいじめの時、一緒にいる茶坊主はほうきを持っています。いくつかの映像版「忠臣蔵」でお掃除をしており、講談のほうでは内匠頭の短刀はほうきでたたき落とすという設定から、意外にほうきは重要なアイテムです。
ほうき、掃除と言えばレレレのおじさん。レレレのおじさんと言えば杉浦茂(<赤塚不二夫先生がリスペクトしていた漫画家)と言うことで、そういう顔立ちに描きました。で、坊主と言えばクリリンということで、その要素も混ざっており、たいがいの日本人になじむ味付けとなっております。
控え室で正しい衣裳を用意してくれていたのは家来の片岡源五右衛門。このエピソードも講談、浪曲、映画に出てきます。彼がド●えもんに似ているのは、源五右衛門(ゲンゴエモン)という名前が似ていることから。当初「えぼしだいもん〜!」と言いながら四次元ポケットから正装を出すというアイデアがありましたが、やめました。顔にその名残が残っております。
一緒にいて背中しか写ってない家来は源五右衛門の同僚で、実は第2話にも後ろ姿で出てきます。第1話での彼の袴は軍袴とふつうの袴を混ぜちゃったようなおかしないでたちです。(補足:ただ「忠臣蔵 花の巻・雪の巻 (松竹)」に同じデザインの袴が出てくるのでレアだが、無いわけではなさそうな。もっとも履いてるのは吉千代くんだが…)
描いたもりいの気持ち的には、彼は早水藤左衛門です。
この第1話で吉良がもう死んだと判断したユーザーの方がいましたがおそらく出血の量からそうお考えになったのでしょう。
ここはあんまり映画ではビジュアル化されない史実を盛りこみました。史実では傷は浅かったそうなのですがたいへんに出血が多かったというのです。もりいのこだわりでございます。
ちょいちょい見切れていた民芸品の犬張り子みたいなヤツは「ちんころちんべえ」今後ともよろしくお願いします。
生類憐れみの令というおふれの出てる背景を持つ忠臣蔵ではちょいちょいイヌが登場します。本作とて例外ではございません。
彼のオマージュになっているのは日本アニメの大先輩、ピカソにも絶賛された大藤信郎監督の「ちんころ平平」。ちんべえは平平をリスペクトした当アニメのオリジナルキャラクターです。「なんという浅ましいお姿になったろうなあ」という台詞は「天狗退治」という作品の台詞を踏襲しています。
最後「しまったー!てめえら人間じゃねえ!」と叫んでいる脇坂淡路守は浅野内匠頭とはお友達の大名で、普段からかばってくれていました。浅野君が吉良のいじわるにキレなければいいが…と日ごろから心配してたけど事件が起こってしまったので「しまった!」と言っています。萬屋錦之介の当たり役だったので彼の似顔絵を使い、人気番組「破れ傘刀舟」の名台詞「てめえら人間じゃねえ」を言わせておりますが、忠臣蔵とそのセリフはまったく因果関係がございません。
予告編に登場する3人は事件中にデートをしくさっていたお軽と勘平(歌舞伎のキャラクター)、そして不破数右衛門です。
お軽と勘平のカップルは歌舞伎では超有名なキャラですが、このいでたちで登場する「足利屋敷門前の場(表門)」の後半は歌舞伎ではほとんど上演されることがありません。
「まんが超忠臣蔵」では不破数右衛門は神出鬼没のキャラクターです。事件当時リストラにあってるキャラクターで、どの映画でもヒゲヅラでボロを着て、鎧櫃(よろいびつ)をしょって現れ、滑稽です。
彼の言ってる「ところであんた、写真好き?」というセリフは広川太一郎氏の当たり役エリック・アイドルの登場する「モンティ・パイソン」のコントにあるセリフで、他人に不躾にエッチなプライベートを聞き出そうとするキャラクターでした。
予告編は次の作品にまったく関係ございません。
第2話 「田村邸の決別」(4分13秒)
出演:浅野内匠頭。多門伝八郎。庄田安利。田村右京大夫。片岡源五右衛門。大石内蔵助。磯田武太夫。不破数右衛門
大事なイベント中に刃傷沙汰を起こした内匠頭に「すぐ切腹!」という裁決が猛スピードでくだり、江戸城の近所の田村さんちの庭で切腹がおこなわれることになった、そのエピソードです。浪曲で聴いたり映画で観ると泣いちゃうシーンです。ほんとは。
最初に切腹会場についてもめているのは目付(誤解を承知で言うと警察みたいなもの。)の多門伝八郎(おかどでんぱちろう)と、上司の庄田安利。
一国一城の主が庭先で切腹させられるなんてかわいそうだと多門は抗議します。「元禄忠臣蔵」が元ネタで、以降映画やドラマでも見られるシーンです。
内匠頭に同情的な多門は映画やドラマでも一方的な裁決に対して反旗を翻すなど、「いい人」の役で、いっぽうの庄田さんはいじわるく「庭先で切腹でいいだろう」と冷酷。このふたりのコントラストのオリジナルは歌舞伎の石堂右馬之丞と薬師寺治郎左衛門として有名で、アニメでの衣裳や顔色はそれがベースになっています。
ちなみに本アニメでのこの会場には、泉岳寺にあったり講談に出てくるものを全部用意して造園しました。桜の木、お化け銀杏。血染めの梅。そして血染めの石です。
ついでに言うと、田村邸の門前のシーンの夕日の落ち方は当時の田村邸の地図をもとに東西南北を意識して作画されています。
あとから菓子折を持って現れるのが、この屋敷の主人、なんの因果か自分ちを切腹会場にされちゃった田村さんです。
声を演じているのが、実際田村邸跡で「切腹最中」というヒット菓子を売ってる新正堂の社長・渡辺さんです。
ド●えもんそっくりな片岡源五右衛門が、切腹しようとしてる殿さまに面会がしたいと必死にお願いしてる旨を目付のふたりに伝えに来てるシーンがこの作品の冒頭です。
講談や浪曲、映画では「無刀、無言(カタナを持たず、殿さまと会話をしてはいけない)」の条件付きで多門さんの一存で面会が許されますが、本アニメでは「無刀、無言、無一文、無節操、無責任」という制約が設けられ、片岡は映画「無責任」シリーズをイメージした歌を歌いながら無節操ないでたちで田村邸に入ることができます。
声をかけられないので、ただただ桜の木の下で泣いてる片岡をなんとか殿さまにコンタクトさせてあげようと、立場上、直接教えてもあげられないので多門が「月が綺麗だ」とかなんとか言って、庭の家来を教えてあげるのが定石ですが、本アニメの殿さまはオトボケなのでだいぶ手こずらせます。
テントに書かれている「田村新校町会」は、実際のあそこらへんの(現代の)町会さんです。昔は界隈を田村町と言ったそうです。
切腹をする際の内匠頭の服の脱ぎ方は映画などに出てくる作法です。みなさんもカミシモで切腹をするときの参考にして下さい。
内匠頭が死に際に思い浮かべるのが第一の家臣・大石内蔵助です。「ゲンゴ、冥途にて待ちおるぞよ!」と片岡に声をかけて内匠頭は逝きます。
介錯人(磯田武太夫)の顔だちは日本でもっとも有名な介錯人、「子連れ狼」の拝一刀をイメージしています。
赤い月に浮かび上がる討ち入りまでの期日は正しいと思います。TVシリーズ「宇宙戦艦ヤマト」のラストシーンのオマージュです。
予告編にある、カゴに不破数右衛門が走って声をかけるシーンは講談がもとで、映像化もされています。もちろん写真が好きかを聞くのではなく、なにかあったのかと昔の仲間に問いただします。じっさいの数右衛門はリストラ後は赤穂のそばに住んでいます。本アニメでは最初江戸にいてカップルをひやかし、箱根あたりで早駕籠をひやかし、第3話では赤穂にいます。
第3話 「大評定」(4分20秒)
出演:大石内蔵助。奥野将監。三村次郎左衛門。矢頭右衛門七。大石主税。寺坂吉右衛門。萱野三平。原惣右衛門。神崎与五郎。不破数右衛門。
急に「殿さまは死んだ」「城から出て行け」と言われておおさわぎする赤穂城。
これが第3作のおはなしです。
オープニング、全然違うアニメが始まったかのようにふざけました。絵柄はともかく、ほんとうの赤穂城に天守閣はありませんでした。( 家臣のカミシモが無紋で不吉… w)
主役と言える大石内蔵助をどういう声で作るか最初の課題でした。
声の録音のギリギリまで長谷川一夫のモノマネでいこうとしていました。「ヤッターマン」の忠臣蔵でも長谷川一夫風だったし、なによりオーソドックスな声色なので。お手本として桜井長一郎のモノマネをYouTubeで探して練習もしました。
が結局、広川太一郎のモノマネが無くなっちゃうのも寂しいなと思いあらため、サイレント時代の「尾上松之助の忠臣蔵」などは同じ俳優が何役もやってるじゃないかと開き直り、内蔵助も広川節でいくことにしました。
ドラマや映画では、侍が会議するだけのシーンで、どうしても退屈になりがちな、本エピソードは最初、ミュージカル調にしようかと思ったんですが、それはそれでわかりにくいと思ってやめました。
大広間でざわつくシーンでは背後のガヤの音にバカバカしい台詞が混ざっています。たとえば「これは漫才ではないんだぞミスター・バーマン」これは70年代に公開された映画「ゾンビ」の冒頭の騒然としてるニュースショーに出てくる科学者?のセリフで当時の字幕をイメージしています。また「オイ見ろよ、なんかヘンなもの落としてったぜ」と映画「ブレードランナー」に出てくる台詞も入ってます。よく聞いて探してみてください。
「意味わかんない」と言われている老藩士の声は漫画家でイラストレーターの青木俊直氏(この録音の8年後に「ひそねとまそたん」のキャラデザイン。)の特出。「城を枕に討ち死にじゃ!」も青木さんです。なかなか素敵な迫力。もりいがシナリオを書き間違えて「官吏(かんり)」に「かんし」とカナを振ってしまってそのままオンエアになっております。
歯の抜けるように同士がいなくなるとき、大石内蔵助の向かって左にメガネをかけた老人がいますが、この人は悪役で有名な大野九郎兵衛というキャラクターのつもりで描いたんですが、消し忘れてしまって、ほんとはいっとう最初に抜けるはずのキャラクターなんですが相当最後まで残ってくれてます。
さて、田中邦衛さんみたいな奥野将監がまず切腹の邪魔に入ります。身分の低い三村次郎左衛門を差別しています。講談に出てくるエピソードで、希にドラマ化されています。三村を演じているのはポンキッキーズのコニーちゃんを生んだ、きはらようすけ氏です。氏は冒頭の「わがきみ!」と叫んでる藩士も演じてくださってます。
奥野将監は大河ドラマ「元禄繚乱」で寺田農が演じたので、彼が演じた「ラピュタ」のムスカのイメージでコンテを書いてたのですが何テイクやっても、もりいのモノマネが全然似ないのと、「最後の忠臣蔵」で奥野将監を演じた田中邦衛のほうがおもしろいし、もりいと誕生日も一緒なので変更しました。
次に奥野が邪魔に入るのは子供の矢頭右衛門七が同席していたから。元服は15歳なので「20歳未満」云々というセリフはだいぶ現代的に大目に見ています。
史実?では「メンバーに女の子が混ざってる」とまで言われた眉目秀麗な美少年だったとか。
演じているのは制作当時カンコンキンシアターでシモネタ番長・ラッキィ池田氏のひどすぎる振り付けのダンスをやってのけていた名優・富田真央さん。素敵な滑舌!
右衛門七が大石主税に「松乃丞さま」と言ってますが、字幕には大石主税となっていてまぎらわしくてすいません。この場での大石主税はまだ元服前で、ほんとうは幼名である松乃丞なのですが、あとのことを考えてクレジットは大石主税にしました。
右衛門七が脅迫するシークエンスは講談にあるエピソードで、小島剛夕の漫画などにも出てきますが、滅多に映画やドラマには出てきません。
寺坂吉右衛門が切腹にくわえてほしがるエピソードも講談です。結局講談というのは自由に銘々伝を作ってしまうので評定、切腹の場面にいろいろエピソードがあり、まとめると本アニメのようにまったく先に進まないと言うことになります。本アニメでは全エピソードを一緒くたにして、いじわるなクロスオーバー作品に仕上げました。
寺坂吉右衛門が切腹にくわえてほしがるシーンは、実際は庭先から嘆願しますが、本アニメでは歌舞伎の寺岡平右衛門のオマージュで登場します。歌舞伎では切腹にくわえてほしがるのではなく、討ち入りの同士に加えてほしいと、遊里で内蔵助に嘆願します。
「申しあげたき儀がごわりまする」と言ったあとに「ねい、ねい、ねいねいねい」と言うセリフは実際に歌舞伎の七段目にあり、歌舞伎を観てても「なにやってるんだ?こいつは」と思ってたので本アニメでもやらせました。
早まって切腹する萱野三平は実際はこんなところで早まりません。史実の彼は連名に加わった後、家の事情があって使命との板挟みで自害するんですが、とにかくイの一番に死んじゃったメンバーではあります。そんなかわいそうな三平をモデルにした歌舞伎のキャラが早野勘平です。「早まったことをいたしたな〜!」は勘平が死ぬ六段目に出てくる千崎弥五郎、原郷右衛門の台詞で、そのままモデルとなった神崎与五郎と原惣右衛門に言わせています。
最後、門の外で血判を集めていますが「血判状を回収しています」という言い方は実際おかしい。集めているのは血判そのものであります(笑)。(あ、でも、署名血判した神文を回収しているとすれば、あながちデタラメでもないのか)
予告のあとまで登場する顔の四角い侍はアニメスタッフの間では「ジブリざむらい」と呼んでおります。
第4話 「里げしき」(3分30秒<本編)
出演:大石内蔵助。村上喜剣。浮橋太夫。不破数右衛門。鷺坂伴内。前野平内。寺坂吉右衛門。大野九郎兵衛。原惣右衛門。神崎与五郎。
今回はスポンサー様についていただきました。
東京・新橋に大正時代から店を構える、ご存じ!切腹最中(義士ようかんもよろしくね!)の新正堂さんの提供でお送りいたします。
番組の最後にCMが入っております。
さて
忠臣蔵では、お城の明け渡しのあと、大石内蔵助一家は京都の山科(やましな)に転宅し、内蔵助自身は突如、祇園島原(or伏見の撞木町)で遊びほうけ始めます。
第4話はそのおなじみのエピソードです。
仮名手本忠臣蔵では七段目にあたり、映画やドラマでも必ずと言ってイイほど、この遊興シークエンスは扱われます。
「里げしき」の「里」とは「いろざと」とも言われる「遊里(ゆうり)」を指し、遊郭のあるエリアのことを言います。
「里げしき」というワード自体は大石内蔵助の作ったと言われる「ふけて廓のよそおい見れば・・」といううたのタイトルで、内蔵助がうきさまと呼ばれるのはこのうたの「露のよすがのうきつとめ」からきたんだろうと、「元禄快挙録」は言っております。芥川龍之介「或日の大石内蔵助」にも出て参ります。
かっこいいので、今回のタイトルにいたしました。
舞台となる遊郭は「一力茶屋(いちりきぢゃや)」。
店先のデザインは人形浄瑠璃や歌舞伎の舞台美術のエッセンスを踏まえた上で、ベタな遊郭のイメージを加えております。
時代劇などでおなじみとも言える?、遊郭=赤のイメージが、元禄時代は定着してない感があるんですが、わかりやすさを優先しました。
遊女のヘアスタイルやファッションに関しては、彼女たちが当時のファッションの先端を言ってる人達なので、ぶっちゃけ、どんな格好でもアリかなと、ご覧のようにしております。ただ、かんざしの数や帯の垂れ下がりは「進化前」のおもむきにしてあります。
浮橋太夫の声をしていただいてるのはイラストレーターの栗生ゑゐこさん。
妊娠9ヶ月の体でふざけてもらいました。
ジャンケンに勝って言う「勝ったのはみんなのおかげ」という台詞はAKB48の第2回ジャンケン選抜の時に、小嶋陽菜がバラエティ番組のアドバイスで勝ったときに「言え」と言われていたもの。
宴会に付き合わされてるのは原惣右衛門と神崎与五郎。ドラマや映画ではいろんな浪士が付き合わされますが、本作では歌舞伎でここらへんに登場するふたりに出てもらいました。
内蔵助が天井にラクガキをしたエピソードも有名なので取り入れましたが、おしゃれに一二点や句読点も入れてみました。
橋本平左衛門は、遊女と心中して脱盟してしまうかわいそうなキャラです。実際はジャンケンに負けて討ち入り選抜から漏れたわけではありません。
彼が嘆く「太夫はなにをお考えか!」的なセリフは忠臣蔵のドラマで誰かしらがどっかで必ず悔やむ、セリフの鉄板です。
遊郭まで出かけて内蔵助に討ち入りを急かす村上喜剣は講談や浪曲のキャラクターです。
今回の三味線と喜剣の声は、「忠臣蔵~村上喜剣~」も十八番の浪曲師・うなるカリスマの国本武春先生にお願いしました。桃中軒 雲右衛門の流れを汲む(ひ孫弟子)武春先生は忠臣蔵がお家芸。実はもりいとは長いお付き合いなのでございます。
オリジナルストーリーのほうの喜剣は、内蔵助に仇討ちの気持ちが無いと知るや、罵詈雑言を浴びせ、暴力を振るったり、ツバを掛けたりと無礼の限りを尽くしますが、ここではハダカにされて追い出されます。
彼と言い合いになってる部屋に用意されている料理は歌舞伎や講談で内蔵助の本心を試すために食べさせられるタコと、講談で出てくるタイ=内蔵助がの目玉を食べる奇行を見せて周囲に「あの人はオカシイ」と思わせる、そのタイをあしらいました。
喜剣がハダカにされる野球拳の時に一瞬屋外になって、前作で登場した寺坂吉右衛門が踊ってますが、そもそも寺坂は仮名手本忠臣蔵で義盟に加えてほしくて一力茶屋にやってくるキーパーソンなので、彼はどちらかと言うと前作よりもこっちの出番のほうがふさわしいのです。
彼のうしろで縁の下でちぎれた手紙と一緒にマヌケにねそべっているのは、元藩士でありながら吉良側に寝返った大野九郎兵衛(斧九太夫)です。
このあと、仮名手本では大野は寺坂にトドメをさされます。
ちなみに、この屋外の絵柄は目隠し鬼のときも使われてるものと同じですが、左にパンすると村上の背後にチラッとハシゴがかかってるのが見えます。
言うまでもなく、おかるが二階から降りてくる用のもので、おかるはアニメには登場しませんが、あしらっておきました。(ほとんど見えませんなw)
今回もオーパーツがさく裂しておりますが、今回一番の推しは七段目の手水鉢の上にをぶら下げている昭和時代の手動式手洗い器。あたしの時代にはなじみが無く、寅さん映画とか見ると出てきます。下から突起を押すと水がちょろっと出てくる仕掛け。
隣室で聞き耳を立てているのは、吉良の放ったスパイ鷺坂伴内(歌舞伎キャラ)と、千坂兵部の放ったスパイの前野平内(講談キャラ)です。
鷺坂伴内は人形浄瑠璃でも歌舞伎でも無理くりふざける演出をされます。特に歌舞伎でのメイクはキモチが悪く、存在も浮いていて、道化的な扱いがかえって不気味で、モーリス・ベジャールはそこを気に入ったと見えてバレエではオリジナルよりも象徴的な演出をしています。
前野は、猿島右門でもよかったんですが、先にスパイに出かけた人を採用しました。
ラストのふとんの柄はももクロを意識しており、ジャンケンではAKBのジャンケン選抜のテーブルをイメージしているなど、「女子力」を象徴する今回、制作当時(2012年3/14現在)に飛ぶ鳥を落とす勢いの2大アイドルの要素をモチーフとして取り入れましたが、彼女たちの時代が次世代に移ってネタが誰にもわからなくても、廃れないようなかんじでしのばせました。
さて
今回は2部構成のオモムキがありまして
予告編は、仮名手本忠臣蔵の五段目、山崎街道をあしらっております。
M16をぶっ放してるのは、初回の予告編以来の登場の早野勘平。
本来は「二つ玉」とも呼ばれるシーンなので、勘平のライフルは2発しか撃たないほうがよいと思われる諸兄もおられるかもですが、これは「二ツ玉の強薬」という「火力が倍の弾丸」という意味なので発射数は何発でもよろしいのでございます。
個人的に大好きなキャラクター、定九郎にはゾンビになってもらいました。カネに心が残って死にきれぬと見えます。
ラジオが垂れてる能書きはゾンビに対する必勝法です。「クビをはずすか、脳を破壊しろ」と言っています。
いのししちゃんにも乙事主(おっことぬし)的な登場をしてもらってます(^∇^)。モリシゲ風の声色をお楽しみ下さい。いろんなかんじで、某名作アニメのオマージュです。
エンドタイトルにかかっている「ぼぼ三昧」はこわかっこいいロッカーの柴山俊之氏によるもので、歌詞は内蔵助が遊びほうけた島原を歌っており、ゾンビにはロックサウンドがピッタリだし、ともかく大大好きなので、頼み込んで使わせていただいております。
ただ、熊本民謡「おてもやん」の曲で、福岡出身の柴山氏が「島原」というと、長崎の島原半島のほう??
村上喜剣が九州・薩摩の武士なので、そのゆかりもあって、このオーバーラップは逆に偶然のコラボ。
第5話 「恋の絵図面取り」(5分40秒<本編)
出演:岡野金右衛門。お艶。不破数右衛門。原惣右衛門。神崎与五郎。小林平八郎。吉良上野介。大工平兵衛
「恋の絵図面取り」は講談のネタにあるまったくのフィクション。
討ち入りを計画してるメンバーは吉良邸の内部がちっともわからないので、関係者を抱き込んで探ろうとするお話です。
これまで公開した「超忠臣蔵」#1~4は言わば史実をベースにしたお話であり、それを第1シーズンとすると、このフィクションがベースの#5から「銘々伝」「外伝」の第2シーズンということになりましょうか。
前の作品から4年というブランクは開き過ぎなんですが、納得の行くデザインや展開が降りてくるのを待ってコツコツとシナリオと作画を進めてたら自然に歳月が流れ、そのあいだに声を当ててくれた赤ちゃんはもう、幼稚園に行っております。
映画やドラマではこのエピソードは何度も映像化がなされており、岡野金右衛門はかつて鶴田浩二や中村勘三郎18th(ドラマ出演当時は勘九郎)や内野聖陽が演じ、お艶の父親(時にお兄さんとかおじさんとか)役も、フランキー堺やハナ肇といった具合に、そのキャスティングからクリエーターたちが殺伐とした男のドラマの中にどれほどこのラブストーリーをキーポイントにしようと考えたかが伺われます。
お艶(つや)も若尾文子、星由里子…、近年では中山エミリ、前田愛(現・中村勘九郎6th夫人)と華やかですが、アニメのお艶を美女で描かなかったのは、金右衛門の本心を最後まで明快にアプローチしないためです。あくまで作戦に利用しただけなのかそれとも…
金右衛門は講談の種類や映画やドラマで小間物屋だったり米屋だったりするバージョンもあります。
原作の講談では金右衛門が作戦のために婦女子をたぶらかすことを徹底的にいやがり「大石様から不義をしてもよろしいというお言葉があれば決して厭いはせぬが…」というバージョンもあります。大石からは「決してかまわん。拙者とて心にもない放蕩三昧。実に五臓が張り切れるようである!忠のためには心にもないこともしなければならん」と返事をもらいます。シナリオの初段階ではこのやりとりを酒屋のバックヤードに設置したテレビ電話で江戸と京都を結び(当初、酒屋にはハイテクノロジーの設備を考えていた)「いいんじゃないかぁ?チョロチョロぱっぱのさ!ニタニタじんじんで!いやったらしんだから!」などとふざけようと思いましたが不破とキャラがかぶるのとテンポが悪くなるなどの理由でやめました。これまでの映像作品同様、金右衛門はしぶしぶ作戦を決行します。
実際は何度も逢瀬を重ねてからお艶を油断させるのがオーソドックスですが、仲間が彼らをふたりきりにするとお艶がすごく積極的に迫るバージョンも有りますw。
デートシーンは夏の花火の夜を予定していましたが、錦絵を見ると当時から花火大会は人出がすごく、とても内緒話が出来る状態じゃないのと、モブシーンを描く体力の無さ、加えてほかで用意した小道具や設定が熱燗や雪の富士山も含めて冬仕様が多かったので、多数決で設定を涼しい季節に買えました。(仮名手本の「五段目」で6月末にドテラ着てたりするんでそういうのは気にしなくてもいいかもなんですがw)
「どうして酒屋が絵図面を欲しがるのか」をどう取り繕うかについても原作の講談では何パターンかあり、実は金右衛門は京都の大工の息子で勘当されている身。吉良邸の絵図を土産に親元に帰れば、いま大名から茶室の注文を受けて困っている親から勘当が赦されて晴れてお艶と結婚できる。とか、子供の時から絵だの絵図だのを集めるのが好きで菱川師宣の絵も飽きるほど集めてるから…などウソが込み入ってます。アニメではどれも使わずハショりました。金右衛門が九十郎という偽名(とはいえ本人の幼名)で潜伏する設定もやめてわかりやすさを優先しております。
ほかに忠臣蔵でフィクションのラブストーリーといえば「仮名手本忠臣蔵」のおかる勘平。「元禄忠臣蔵」の礒貝十郎左衛門とおみのが有名です。特に、今回金右衛門がお艶からのラブレターをふところにいれて討ち入りをやってるさまは礒貝十郎左衛門がふくさに包んだ琴の爪をふところに忍ばせて闘った逸話のオマージュとなっております。
オマージュといえば、金右衛門は商人に化けてるにもかかわらず、言葉が武士のままでおしゃべりがメチャメチャなところは講談「潮田又之丞」の中でも出てくるギャグです。
忠臣蔵の演芸や映画には、もともと武林唯七のものとして創作されたものを映画では不破数右衛門のエピソードとして描いたり(「韋駄天数右衛門」)、矢頭右衛門七のエピソードが神崎与五郎のために映像化されたり(「ほまれの美丈夫」)と、シチュエーションをシェアするのは伝統?なので遠慮無く拝借しました。
劇中、絵図面をゲットしたあとに金右衛門がお艶にカケオチを持ちかけると見せて、彼女の身の安全を守るため「12月14日は吉良邸へバイトに出るな」と言ってますが実際これだと、絵図もないのにXデーが決まってたことになり、なんともヘンな話でして、絵図面がゲットできて手はずが整ったということで計画が進むのがほんとうのところです。
原作では金右衛門の正体を知ったお艶はあとを追うつもりで自害するパターンも有り、その場合講釈師は「これがお通夜の語源です」とダジャレで結んだり(<すげえぶっこみ方だな。講談)しますが、「超忠臣蔵」ではいつか引き揚げパレードの時にふたりを逢わせてあげたいと考えています。
(ダジャレといえば劇中に出てくる「一難去って福本日南」ですが、安政から大正を生きたジャーナリスト福本日南は名著『元禄快挙録』を書き、中央義士会を設立した人物。)
シリーズ中、初めて吉良邸が出てまいりますが、ここを探る手段は当初、よく飛ぶホッピング。鳥型のドローン。高性能の潜望鏡などが考えられ、そうした仕掛けが得意なアニメ「スカイキッド・ブラック魔王」の雰囲気によく似たメンバーで展開(ちんべえにはケンケンの役を)しようとしましたがこれも整理しました。
途中、ふたりの逢引に出てくる川っぺりの子どもとあま酒屋は、事件当時を行きた絵師・住吉具慶の都鄙図巻(とひずかん:元禄時代の人々の様子を描いた作品)に出てくる人物。
甘酒屋の声を当ててくださっているのは今回のゲストスター、なにかと昵懇の落語家の春風亭一之輔師匠。
デートと絵図面奪取のシーンにかかるBGMは黒木麓さんともりいの後輩のイラストレーターhima://KAWAGOEによるもので、オープニングテーマのバリエーション。
エンディングの歌のカラオケもおふたりの演奏によるもので、オリジナル曲は著作権切れの昭和歌謡。歌詞はもりい作詞のラブソング(笑)。
独りでいると泣けてくるのよ
心そぞろにやるせないのよ
せきくる涙がメロメロ出るのよ
思わず知らずに憎たらしいのよ
おそばに居させて頂戴な
おそばに居させて頂戴な